十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「でも、この時代、こんなのばっかりだ。そいつとは別に、フランスにも正体不明の流れ者がやってきた。マルチネス・ドパスカリ。一七五四年、二七歳のとき、マルセイユの西百キロほどの大学街モンペリエ市に、メイソンまがいの新興宗教教団「エリュ・コーエン(選良司祭団)」を興した。こいつ、霊媒師で、パスとかいう超常現象を参加者に見せつけたんだ」「どうせ幻灯機かなにかの手品なんだろ」「どんな教義だったんですか?」「ユダヤ教とグノーシズムがくっついたみたいなの。よくある霊魂浄化系だな」「南フランスは、もともとユダヤ人も多かったし、カタリ派があったところだから、そういう新興宗教みたいなのが受け入れられやすかったんだろ」「シューマッハー同様、他の大ロッジやチャプターに上納金を納めるより、自分がネズミ講のトップになった方が儲かるからね」「入る方も、上が詰まっている古いところより、新しいところの方が上に駆け登れるからな」

「サンジェルマン伯爵というのも、正体不明なやつで、一七四五年のジャコバイト反乱のすこし前に音楽家としてロンドンに現れて、名士たちとの交流を広め、四九年以降、フランスのルイ十五世に密使として外交や諜報に活躍していた。錬金術マニアで、自分は不老不死だと言っていたとか」「ルイ十五世の密使って?」「スクレ・ドゥ・ロワ(王の密偵)という組織だ。オーストリア・ハプスブルク家がタクシス侯家にコソコソと郵便諜報をやらせていたのに対して、フランス・ブルボン家は、あちこちの宮廷に度派手で魅力的な外交官を派遣し、情報収集をさせていたんだ」「へぇ、スパイなのに、堂々と乗り込ませるんですね」「騎士デオンなんていうのも、有名だろ」「リボンの騎士やオスカルのモデルですね。あの人、結局、男? 女?」「自称女性の男装の麗人だったようだよ」「えーと、それって、結局、どっち?」

「ついでに、千人の女と寝たと豪語する天下御免の冒険野郎、カサノヴァも、この時代だ。しかし、娘をたぶらかされた故郷ヴェネチアの貴族によって、彼のメイソンロッジでの霊媒術を告発され、一七五五年、三〇歳のとき、ヴェネチア監獄に入れられてしまった」「ああ、総督宮の後ろ側、厳重強固、灼熱と極寒で知られる屋根裏部屋の「鉛屋根の監獄」だな」「ところが、鉄製の閂を削って矛を作り、大型のヴルガダ聖書の背に隠して、隣室の悪辣修道士に贈り、天井と壁に穴を開けさせた。そして、翌五六年、判事長が休みで牢屋番も怠ける祭日、幽霊が地上にさまよい出るという十月三十日、万聖節の濃い霧の夜、カサノヴァは鉛屋根の上に出て、墜ちたら死んでしまう高さ数十メートルの屋根の急勾配を登り切り、万聖節を告げるサンマルコ寺院の深夜の鐘の音に紛れて天窓を壊し、官邸の広間に下りた。そして翌朝、官邸の鍵が開くとともに、彼らは夜遊びの朝帰りのような格好で飛び出して、ゴンドラに乗り込み、フランス、パリ市へ逃走してしまった。以後、サインガルトの騎士とか、ファルッシ伯爵とか名乗って、あっちこっちで好き勝手なことをやっている」「なんか、007を地で行くような人たちがいっぱいだったんですね」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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