十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

2018.02.17

開発秘話

十八世紀ヨーロッパの山師たちを巡る対話:フリーメイソンと外交革命

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/十八世紀、メイソンリーという新たな国際ネットワークの中で、新旧両教の対立は大きく構図を変え、北米、南米、エジプトへの近代十字軍の構想とともに、えたいの知れない山師たちが各地で暗躍するようになる。/

「ところが、これまた大きな番狂わせで、皇帝の愛娘で美人才媛のマリアテレジアと熱烈な恋に落ちて、三六年に結婚したんだ」「恋愛結婚? ヨーロッパの貴族なんて、みんな政略結婚じゃないのか?」「国を失った公爵なんかと政略結婚するやつがいるもんか」「しかし、そいつがロンドン大ロッジ系メイソンの一員となると、面倒そうだな」「そのうえ、ロンドン大ロッジは、翌三七年、帝国自由都市ハンブルクに最初のドイツロッジ「三本イラクサのアブサロム」を建てた。英国王ジョージ一世の孫のプロシア王太子フリードリッヒ二世も、三八年にここに入会した」「つまり、ロンドン大ロッジ系メイソンが、大陸の王侯貴族たちを取り込んで、北ドイツからオーストリアまでの壁を作った、ということですね」

「これに対抗して、フランスでは、ローマ亡命中の僭称王太子チャールズ三世の家庭教師で熱狂的なカトリックジャコバイトメイソンのエセ準男爵ラムゼーが、翌三七年、メイソンは聖堂騎士団の末裔だ、と言い出した」「石工じゃない、貴族の組織だ、って言って、大陸の王侯貴族をロンドン大ロッジ系から、パリ・ジャコバイト系に呼び戻そうとしたのか」「ところが、スコットランド大ロッジは、メイソンはあくまで石工の団体だ、と言って即座に否定した。おまけに、ラムゼーのいたフランスでは、メイソンが聖堂騎士団の末裔だと聞いて、各地のサロンの都市貴族たちが女性まで続々とメイソンに入って、フランス大ロッジを作ってしまった」「どういうことですか?」「ラムゼーは知らなかったようだが、フランスじゃ、聖堂騎士団は反王権・反カトリックの象徴だったんだよ」「カトリック・ジャコバイトのメイソンが、逆にフランスの反カトリックを組織してしまった、というわけか」

「これに驚いて、翌三八年、教皇クレメンス十二世が最初のメイソン禁止令「イン・エミネネンティ」を出す。そして、富くじを駆使して準備した莫大な軍資金で、四〇年に教皇になったベネディクトゥス十四世がカトリック復興の強硬路線を推し進めた。おりしも、神聖ローマ皇帝位を世襲していたハプスブルク家には男子が生まれず、皇帝カール六世は、やむなく娘の才女マリアテレジアと、その婿のロートリンゲン公フランツ一世に、とりあえず跡を継がせようとした。だが、プロシア選帝王フリードリッヒ二世は、一七四〇年末、それを認める代わりに、と言って、ポーランド西部の皇帝領シレジアを奪取。これをきっかけに、ザクセン選帝公兼ポーランド王アウグスト三世はボヘミア(チェコ)を、バイエルン選帝王カールアルプレヒトはチロルを、フランス王ルイ十五世はラインを侵略した」「プロシア選帝王なんて、皇帝がプロシア選帝公を特別に王に昇格させてやったんだろ。飼い犬に手を噛まれるみたいな話だな」「プロシアはともかく、ポーランド、バイエルン、フランスは、みんなたしかカトリック国ですよねぇ」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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