求められる仮説検証(4)戦略仮説の検証がなぜ必要か、その効能は?

2025.06.04

経営・マネジメント

求められる仮説検証(4)戦略仮説の検証がなぜ必要か、その効能は?

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

仮説検証の必要性について改めて訴える「求められる仮説検証」シリーズの第4弾。「戦略仮説の検証」が必要な具体的理由を述べたい。

この課題仮説がずれていると、たとえ課題そのものは正しく設定されていたとしても、本質的でない点に着目して打ち手を組み立ててしまうリスクがある。

例えば、既存顧客の解約率(チャーン率)が高いことが問題だと正しく認識しており、「長期契約を促すインセンティブ制度を導入すれば解約が減るだろう」という打ち手仮説を立てたとする。

ところが、いざ試してみると、顧客は価格や条件ではなく、実はサポート対応の遅さなど体験面の不満から解約しているため、インセンティブ施策がほとんど効果を発揮しない場合がある。

このケースでは一見「打ち手仮説」の誤りと思われるかもしれないが、実は「課題仮説の誤り」なのだ。問題の存在認識(解約率の高さが問題であること)は正しいが、その問題がなぜ生じているのかという要因構造の認識が間違っていた、という訳だ。

つまり、課題仮説の検証は「課題/問題の構造的な見立てが正しいか」を確認する作業であり、これにより戦略の根本的な方向性を間違えずに済む。検証により誤りに気づければ早い段階で方針転換ができ、無駄な検討の時間や手間といったリソースの浪費を回避できる。

(2)打ち手仮説が誤っている場合

打ち手仮説は、特定の課題に対して、「こうすれば解決するはずだ」という具体的な対策の仮説だ。課題認識が正しく、問題の要因構造もきちんと把握できていたとしても、解決策(打ち手)の選定や実行方法が不適切であれば、期待した成果は得られない。

例えば、「既存顧客の解約率が高いのは、サポート対応に時間がかかり過ぎて顧客体験が悪化していることが主要因だ」という課題仮説が正しく認識されていたとする。そのうえで、「AIチャットボットを導入すれば顧客の不満は大幅に減り、解約を抑制できるだろう」という打ち手仮説を立てたとする。

しかし、実際にAIチャットボットを導入してみると、期待された効果がほとんど出ない可能性がある。なぜなら、顧客が必要としていたのは「機械的な即時回答」ではなく「複雑な問い合わせに対する人間の丁寧な対応」だからだ。そうなるとサポート体制の自動化はむしろ不満を助長し、解約率は下がらない。

この場合、「課題仮説(サポート対応の遅さが解約要因)」は正しかったが、「その解決策としてAIチャットボットを導入する」という打ち手仮説が誤っていたことになる。

あるいは別の例として、社員の生産性が低下している原因が「部門間の連携不足にある」という課題仮説が正しく認識されていたケースを考える。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。                     ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/                 ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/

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