薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

2017.10.23

開発秘話

薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/応仁の乱と同じく、ヨーロッパの三十年戦争も、ややこしい。しかし、そのわかりにくさの元凶は、近代の領邦国家の感覚で理解しようとしているから。むしろ近代の領邦国家ができる課程でこそ、この戦争は起きた。同様に、われわれの未来も、現代の構図で理解しようとしたのでは、理解できないだろう。/

「皇帝との関係は?」「教会の作戦が、大成功したんだよ。五二年生まれのマクシミリアン二世の息子、ルドルフ二世は、スペイン・ハプスブルク家の方に預けられたんだが、教会はこの間に彼をイエズス会の教育でガチガチのカトリックに染め上げたんだ」「それで、あんな変人になったんだな」「どう変人なんですか?」「実の弟、マティアスとケンカし続け、一五七六年に父帝マクシミリアン二世の跡を継ぐと、宮廷をウィーン市からプラハ市に遷して、結婚もせず、魔術的な錬金術だの博物学だのに耽溺してたんだ」「引きこもりオタクのはしりみたいな人ですねぇ」「引きこもりったって、皇帝だからねぇ。大帝国の政治はまったくのお留守」「それじゃ、よけい揉めますね」「それが、そうでもないんだよ。同世代で五三年生まれのナヴァラ王ブルボン家アンリ四世が、いまこそチャンスだ、フランス国内で揉めている場合じゃない、って、ユグノー戦争の収拾を図る。一方、イングランドでは、五四年生まれの国際的な文人冒険家フィリップ・シドニーがネーデルラントに渡って、軍人として加勢」

「フィリップ・シドニーって、『アルカディア』っていう長編詩を書いた人ですよね」「ただ、八六年に戦死してしまった。しかし、フランスでは、ヴァロワ王家が断絶し、八九年、プロテスタントのナヴァラ王アンリ四世がカトリックに改宗して王位に就き、九八年のナント勅令で、カトリック教会への納税を条件に、個人の信仰の自由を認める。また、ネーデルラントも、一六〇〇年ころまでには、事実上の独立を果たした」「プロテスタントの勝利ですね」「ああ。アンリ四世は、フランスでは珍しく、国民に愛された王で、パレ・ロワイヤルをはじめとして、首都パリ市の大規模な再開発を行った。ネーデルラントも、アジアの香辛料貿易で巨大な富を得るようになった」

「建設とか、貿易とか、どっちもメイソンっぽいな」「でも、とりあえず、いい感じじゃないですか」「しかし、偏屈カトリックの皇帝ルドルフ二世は、まだ健在だったし、イングランドでは女王エリザベス一世が跡継の無いまま亡くなってしまい、〇三年に代わって出てきていたのが、女王のおばさんの曽孫に当たるスコットランドのステュワート朝のジェイムズ一世だ。宗教も魔術も大嫌いで、科学者のフランシス・ベーコンを重用し、就任早々、カトリックもプロテスタントも徹底排除。王権神授説に基づく絶対独裁を始めた。また、建築家のイニゴー・ジョーンズを王室営繕局長に採用して、ロンドン市大改造をやらせ、コヴェントガーデンやセントポール大聖堂の改修を計画している」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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