薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

2017.10.23

開発秘話

薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/応仁の乱と同じく、ヨーロッパの三十年戦争も、ややこしい。しかし、そのわかりにくさの元凶は、近代の領邦国家の感覚で理解しようとしているから。むしろ近代の領邦国家ができる課程でこそ、この戦争は起きた。同様に、われわれの未来も、現代の構図で理解しようとしたのでは、理解できないだろう。/

「ドイツは、どうだったんですか?」「ヘッセンカッセル方伯を継いだ「博学」モーリッツは、父の「賢明」ヴィルヘルム四世同様、みずから自然科学や人文学、芸術に深い関心を持ち、錬金術、演劇、音楽などを振興した。そしてなにより、彼はみずから建築家として、数々の都市計画や建築構想を創った」「まんま、メイソンだな」「でも、ルター派の盟主だったのに、〇五年、突然、カルヴァン派に改宗してしまった」「じゃあ、ルター派は?」「代わってプロイセン・ツォレルン公家が中心になった」「ツォレルン公家って、ほんと世渡り上手だな」


メイソン・傭兵・劇団

「それにしても、どの国も建設工事だらけですね」「この時期、都市国家から領邦国家へ構造が大きく変わっていったからね」「どう違うんですか?」「色で塗り分けた歴史地図みたいなのが誤解の元なんだよ。一六〇〇年以前、どこの国も、そんな広大な面の支配力なんか持っていなかった」「というと?」「城壁を持つ都市を中心に、あちこちに点在する町や村を持っているというだけ。だから、飛び地だらけで、地図を見てもわからない」「町や村のほかは?」「山賊と魔女と野獣がいる黒い森」「まあ、いまでもヨーロッパは、そうだけどな。町を出てしまうと、果てしない森が広がっているよ」

「ところが、宗教戦争や一五五五年のアウグスブルクの宗教和議で、領邦単位で信仰の選択をすることになった。こうなると、入り組んでいる支配権を面で整理する必要が生じた。いちばん問題になったのが、事実上の自治権を持つ自由都市だ。ヴェネツィアやジェノヴァをはじめとして、商人貴族たちが共同体の独立都市国家を成し、それが周辺に点在する町や村も支配している。連中は、領主が都市に介入することを激しく嫌っていた」

「ドイツのニュルンベルクも、商人貴族たちが支配して、皇帝城の城代伯ツォレルン家を追い出したんだもんな」「ローマ市だって、フィレンツェ・メディチ家だの、バレンシア・ボルジア家だの、トスカーナ・ファルネーゼ家だの、よそ者の教皇だらけで、ソリが合わなかっただろう」「ミラノ市も、ヴィスコンティ公家が支配していたのを、その傭兵だったナポリ出のスフォルツァ家が乗っ取ったんだしな」「パリ市も、昔からフランス王とは仲が悪いですもんね」「それに、ロンドン市も、スコットランドから来たジェイムズ一世を毛嫌いしていた。ハプスブルク家皇帝ですら、プラハ市の都市貴族たちと争っていたし、ブランシュヴァイク公も、ブランシュヴァイク公とは言うものの、ブランシュヴァイク市に入ることもできず、ヘッセンカッセル方伯も、南のフランクフルト市とにらみあっていた」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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