薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

2017.10.23

開発秘話

薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/応仁の乱と同じく、ヨーロッパの三十年戦争も、ややこしい。しかし、そのわかりにくさの元凶は、近代の領邦国家の感覚で理解しようとしているから。むしろ近代の領邦国家ができる課程でこそ、この戦争は起きた。同様に、われわれの未来も、現代の構図で理解しようとしたのでは、理解できないだろう。/

「フリーメイソンやスイス人傭兵と並んで、もう一つ、新時代の領邦国家領主が活用したのが、劇団、つまり、移動演劇者集団だ。みんなそれぞれの街に大劇場を創っている」「前の女王エリザベス一世と違って、ジェイムズ一世なんて、芝居なんか関心がないだろ」「芝居はあくまで口実さ。実際は、領主に反発している都市の貴族や庶民を娯楽で懐柔し、また、外国に公演旅行と称して行って諜報や外交を行ったんだ」「たしかにそれ、便利ですね」「今で言うメディア戦略や情報戦略だな」


薔薇十字友愛団の幻影

「でも、一六一〇年、馬車に乗っていたアンリ四世が、パリ市第1区フェロンヌリ通り11番地で、狂信的カトリック教徒に刺し殺されてしまう。いま、ショッピングセンターのルアレがある、すぐ南の通りだ」「その後、フランスはどうなったんですか?」「まだ八歳だったルイ十三世が王位を継いで、メディチ家出身の母后マリーが摂政に就き、中立政策を維持したが、カルヴァン派の不満はくすぶり続けた」「それじゃ、まとまりそうにありませんねぇ」

「そんなとき、奇妙な事件がヨーロッパ中を騒がした。一六一四年、カッセル市で『薔薇十字友愛団の名声』という奇妙な冊子が出版されたんだ」「なにが書いてあったんですか?」「東方巡礼を果たしたクリスチャン・ローゼンクロイツという人物を中心とする秘密結社が、秘教科学を駆使して人間を死や病気から救う、その団員はすでに世界に派遣されている、という話だ」「なんだよ、それ」「ローゼンクロイツは、薔薇十字を紋章にしたルターだとか、赤バラ・白バラの二家で争ったイングランドの前のプランタジネット朝の残党のことだ、とか、当時、いろいろにウワサされた」

「なにをしたかったんですかねぇ?」「ほら、一五五五年のアウグスブルクの和議は、領邦単位での信仰の選択だっただろ。だけど、カトリック側諸国にも、すでにルター派の仲間が大量に入り込んでいるぞ、って、疑心暗鬼を煽ったんだろうな」「そんなの、効いたんですか?」「ああ、カトリックは、この話を本気にして、一六一六年のガリレオの異端審問をはじめとして、各地でまた時代錯誤の魔女狩りなんかやっている。とくにプロテスタント領に接しているバンベルク市やマインツ市、ヴュルツブルク市では、この時期に何百人もが魔女や魔師として処刑されたんだ」

「だけど、その薔薇十字友愛団ってメイソンのことか? 著者がメイソンなのか?」「いや、著者のアンドレーエがローゼンクロイツのモデルにしたのは、おそらく一人じゃない。ブラウンシュヴァイク公ユリウスとその息子のハインリッヒユリウス、ヘッセンカッセル方伯「賢明」ヴィルヘルム四世とその息子の「博学」モーリッツ。彼らは、まちがいなくメイソンだ」「でも、ヴィルヘルム四世以外はみんな、ルター派ではなく、カルヴァン派でしょ」「なんで彼らがカルヴァン派に改宗したと思う?」「さあ……」「さっき話したように、彼らの本当の敵はカトリックじゃない。カトリックと対抗して、自分の領邦の中に巣くっているルター派の都市の商人貴族たちだからだよ。それに、カルヴァン派の方が、都市の商人貴族たちと対抗するメイソンや傭兵をネーデルラントやスイスから呼び込みやすい」「つまり、カトリックを刺激して、領邦内都市のルター派商人貴族たちと争わせようとしたわけ?」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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