薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

2017.10.23

開発秘話

薔薇十字友愛団と三十年戦争を巡る会話

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/応仁の乱と同じく、ヨーロッパの三十年戦争も、ややこしい。しかし、そのわかりにくさの元凶は、近代の領邦国家の感覚で理解しようとしているから。むしろ近代の領邦国家ができる課程でこそ、この戦争は起きた。同様に、われわれの未来も、現代の構図で理解しようとしたのでは、理解できないだろう。/


冬王擁立という誤算

「でも、歴史は思ったとおりには転がっていかない。ジェイムズ一世は、前年の一三年にハイデルベルクのプファルツ(宮中)選帝伯フリードリヒ五世に娘を嫁がせている。この結婚は、テムズ川とライン川の合流、と言われた。いや、遡れば、フリードリヒ五世自体、母はネーデルランドのオラニエ公とフランスのブルボン家の娘。つまり、大オーストリア・スペイン・南イタリアとベルギーからミラノまでの独仏中間帯を握るハプスブルク皇帝家に対して、フランスとイングランド、ネーデルラントが一本化した、ということだ。おまけに、このフリードリッヒ五世夫婦は、ドイツでもとても人気があった」

「じゃあ、ハプスブルク皇帝家と一触即発じゃないですか」「いや、この前後、財務長官のフランシス・ベーコンは、大陸側の各国にいくつもの劇団を送り出している。これを受け入れたのが、ブラウンシュヴァイク公ハインリッヒユリウスとか、ヘッセンカッセル方伯モーリッツとかだ。かれらはルドルフ二世の弟の、まともな新皇帝マティアスと連絡を取り、調整を計っていた」「カトリックにせよ、プロテスタントにせよ、彼らの敵は、それぞれの国内の都市の商人貴族たちで、王族同士は教会のために争ってやる必要なんてないですからね」

「ところが、がちがちのカトリックの三番目のフェルディナンド二世がボヘミア王になったら、一八年、プラハ市の新教徒の商人貴族たちが、人気のプファルツ(宮中)選帝伯フリードリッヒ五世をボヘミア王に担ぎ上げてしまった」「え? それって、いい迷惑じゃないですか。遠い西のハイデルベルクにいるんでしょ?」「それ以前に、都市の古い商人貴族たちなんて、彼からすれば、知ったことじゃないだろ」「でも、フェルディナンド二世の方も、同じカトリックのバイエルン公を引き込んだせいで、宗教戦争のような構図になってしまう。そのうえ、翌一九年、まともな皇帝マティアスが死んで、弟のフェルディナンド二世が皇帝に成り上がり、対立はよけいに悪化」

「カルヴァン派のブランシュヴァイク公やヘッセンカッセル方伯は?」「ハインリッヒユリウスは一三年に死んでしまっている。モーリッツは生きていたが、どちらの国も、いくら同じプロテスタントだろうと、もともと都市貴族たちは嫌いだし、そうでなくても、メイソンに騙されたような、むちゃくちゃな大規模建設工事で財政破綻。まったく身動きが取れない。それどころか、相争う新旧両教から草刈場のように、最後の金貨までむしり取られた」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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