2010年代に見えていたメガトレンドと、見えていなかったもの

2025.09.17

経営・マネジメント

2010年代に見えていたメガトレンドと、見えていなかったもの

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

メガトレンドは企業戦略の羅針盤となる。2010年代の代表的予測を検証し、「外れ」が示す不確実性から次の一手を考えたい。

5.代表的メガトレンド書の予想は当たったのか

2025年現在から振り返ると、これらの予測の多くは方向性としては的中している。

  • ドンピシャだったもの:デジタル化の加速、世界的相互依存、資源制約。
  • ようやく顕在化:高齢化の深刻化、都市インフラ不足、中央政府影響力の低下。
  • 未だ不透明なもの:人類の「超人化」や生態操作といった領域。

つまり「当たり」「これから」「まだ先」が入り混じる「まだら模様」の現実となっている。

6.見えていなかったメガトレンド

一方、2010年代の代表的予測書が見逃した潮流もある。

リベラルへの反動と分断の表面化
トランプ政権の登場を象徴に、民主主義・グローバリズム・環境重視・LGBT共感といったリベラル価値観に対する反発が顕著化。先進国での移民忌避、分断の拡大は、当時の予測では十分に捉えられていなかった。

主要国社会での二極化―中間層の劣化
米国や欧州、日本を含む先進国では、中間層の購買力や生活安定性が低下。富裕層と低所得層の格差が拡大し、社会的二極化が進んだ。この構造的変化は分断の背景要因の一つであり、ポピュリズム政治の台頭にも直結した。

ロシアのウクライナ侵攻と逆流するエネルギー秩序
2022年以降の戦争は、世界的インフレとエネルギー供給網の混乱を招き、化石燃料依存が一時的に逆流する現象を生んだ。気候変動対応の大きなリスクファクターとして顕在化したが、2010年代の予測書では地政学リスクは軽視されていた。

安全保障体制の再編と財政構造の変容
自由主義陣営は安全保障に巨額投資を余儀なくされ、防衛産業の再興と財政圧迫を招いた。ICTや経済よりも軍事と安全保障が政策の中心に再浮上する潮流は、当時は十分に想定されていなかった。

AIの急速な進展と社会的インパクト
AIの進化は当時も論じられていたが、2020年代に入っての生成AIの爆発的普及は、予測を超える速さで社会を揺さぶった。文章生成、画像生成、プログラミング支援など、知的労働の一部がAIによって置き換えられる現象は、既存産業の構造や教育・労働市場に大きな衝撃を与えた。AIは単なる技術トレンドにとどまらず、「人間の役割とは何か」という根源的な問いを突きつける存在となっている。

7.結語

未来予測は「外れる」ことを前提に読むべきだが、それでも2010年代に描かれたメガトレンドの多くは、方向性としては的中した。都市化、デジタル化、高齢化、環境・資源制約は、今や誰もが認める不可逆的な流れである。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。                     ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/                 ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/

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