“競争優位”の賞味期限──なぜ、勝っても報われないのか?

2025.12.22

経営・マネジメント

“競争優位”の賞味期限──なぜ、勝っても報われないのか?

松井 拓己
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

「どれほど品質を高めても、便利さを追求しても、顧客満足を磨いても、最後は価格で比べられてしまうんです」。このような嘆きを多くの経営者やビジネスパーソンから耳にしてきました。 その言葉を口にする企業の多くは、決して努力が足りないわけではありません。むしろ、誰よりも努力し、市場で評価されるための差別化を追求した結果として、この苦しい現実に行き当たっています。 この努力が報われない根本的な原因は、企業の努力の質にあるのではなく、そもそも“競争”という土俵そのものにあります。

どれだけ革新的な差をつけても、すぐに模倣が追いかけてきます。その差は時間とともに薄れていき、いずれ市場全体で横一線に収束してしまいます。結果として、最後に残るのは、価格とスピードという“消耗戦”だけです。企業が頑張れば頑張るほど疲弊し、利益率は削られていきます。これが共創の構造的な問題です。

競争が“優位”にならない

経営の教科書やビジネス書には、「競争優位」という言葉が溢れています。しかし、現実の世界で、この“優位”を長期的に維持できている企業はごくわずかです。

その理由は単純明快です。競争優位は時間とともに必ず模倣され、縮小し、消えていく運命にあるからです

新しい機能を備える、サービスを効率化する、価格を最適化する、スピードを上げる、美しい店舗を構える、使いやすいアプリを提供する──。こうした差別化を目的とした施策は、一時的には「差」を生み出しますが、少し時間を置けば、すべてが水平化に向かいます。「差」をつけようと努力すればするほど、その「差」は市場によって吸収されていくのです。

その結果、企業は永遠に“次の差別化”を求められ続けます。「差別化 → 模倣 → 再差別化」の“競争の呪縛”は、多くの企業に疲弊と焦燥だけを残します。今、多くの経営者が薄々気づき始めているのは、競争優位を追いかける時代は、静かに終わりつつある、ということかもしれません。

何を目指すべきなのか──答えは「共創優位」

競争優位が「他社より優れているか」という視点に立つものだとすれば、共創優位は、それとはまったく異なる次元で成立します。

共創優位とは、“顧客とともに価値をつくれるかどうか”という「関係性そのものが、企業の優位になる」という考え方です。

この共創の土俵においては、もはや他社との比較は意味を持ちません。なぜなら、比較される軸が消滅するため、価格勝負は起こらなくなるからです。その代わりに、企業と顧客との間に長期的な関係が自然に築かれていきます。顧客の成長が企業の成長と連動し、紹介やリピートは、良好な関係性の副産物として増えていきます。

つまり、「競合に勝つ」のではなく、「顧客と育つ」ことで強くなるのが共創優位の本質です。この土俵に立つことができた途端、ビジネスは嘘のように楽になり、そして持続的に強くなることができるのです。

競争と共創の決定的な「構造」の違い

競争と共創の違いを、提供する「機能」や「サービス水準」の違いで説明しようとすると、本質を見誤ります。両者の本質的な違いは、もっと深いところ、すなわち“構造”にあります。

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松井 拓己

サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。              【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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