バーションアップはカネのムダ?

2022.07.26

IT・WEB

バーションアップはカネのムダ?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/そのうち、マシンメーカーとソフトメーカーが結託して、OSの過去互換性を無くして、古いソフトを一掃してしまうのだろうか。そうなると、いよいよ新しいマシンも買いたくなくなるのかも。こんなことをやっていて、我々は、その後、「進歩」してきているのだろうか。/

いちばん致命的なのは、フォントメーカーに媚びて、外字を完全排除してしまったこと。その方がたしかにトラブルは減るはずなのだが、漢字だらけの日本のフォント事情は完全ではなく、漢文や仏教、江戸の木版刷りなどが絡んだ歴史的な物事に関わると、漢字がフォントに無く、作字が不可欠なのだ。これに関して、IndesignはCS5までは、出来が悪いながらも、Illustratorで作字して、これをIndesignに読み込むSING Gryphlet Managerという媒介ソフトが付属されていたのだが、これがその後、完全に廃止。このため、2010年以前のデータが危なくて使えなくなってしまった。

そこで、奇妙なことに、いまでも多くの出版社、印刷所、デザイナーの手元では、2008年のCS4の方が業界標準としてマシンの中に残され、実際、けっこう使われている。これが無いと、外字を含むデータが来たときに読み出せず、いざというときに作字できないからだ。(もっとも、器用なデザイナーだと、TTエディタやOFエディタで、必要な外字しか入っていない自前のフォントを新規に作り直してしまい、外字の部分を自作フォントに「字体」を変えたことにして対応する、という手もあるようだが、全部の作字をやり直すなど、まったくのムダ手間でしかない。)

マイクロソフトのOfficeもそうだろう。基本的には2007年版あたりでほぼ完成していて、あいかわらずそのころの古いバージョンがそこら中に残っている。マクロなどを考えると、互換性として、気づかずに新しい関数を使ったりする方がトラブルの元。自分も古いバージョンで動かして、それで動くものの方が、人に渡しても安全。

ゲームに至っては、もっとひどい。もちろん、最近のはたしかにすごいのだが、おじさんおばさんはもちろん、子供たちも、ややこしくてついていけない。人間の余暇の「遊び」の範囲と程度を越えてしまった。それで、あえて家族では昔のゲームを楽しんでいる、なんていう話をよく聞く。そのために、完動する昔のマシンが意外な高値になっていたり。

NECの98が無くなったとき、多くのソフトも死んだ。まあ、その後のWindowsの勢いがすごかったから気にならなかったが、そのうち、マシンメーカーとソフトメーカーが結託して、OSの過去互換性を無くして、古いソフトを一掃してしまうのだろうか。そうなると、いよいよ新しいマシンも買いたくなくなるのかも。こんなことをやっていて、我々は、その後、「進歩」してきているのだろうか。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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