​さよなら一太郎:地方企業の限界

2023.02.01

経営・マネジメント

​さよなら一太郎:地方企業の限界

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/未来は、過去には無い。地方に甘んじるな。学者に騙されるな。レガシーの上に立つ現場を生で見て、そのレガシーを自分で根本から組み直すこと。これまでと同じことを、発展可能性のある、まったく別の原理で根本からやり直してみせること。天動説を地動説に組み替えたガリレオのパラダイム転換と同じことが、いますべての分野で企業に求められている。/

複数のソフトをインストールしている人もいるので、正確な時系列の統計があるわけではないが、友人知人、ネットの話を聞くに、個人的な印象としては、急激に一太郎離れが進んでいる。これには、昨年度版から一太郎のキモのローマ字漢字変換システムのAtoKが年額更新ライセンスになったこともあるが、それ以上に、地方企業の根本的な限界を感じさせる。

いろいろ言われてはいるが、一番の問題は、一太郎がプロユースに耐えない、ということ。もし開発元のジャストシステム社が最初から東京か横浜を拠点にしていたら、こんなバカなことにはならなかっただろう。先行していた「松」の管理工学研究所などと違って、同社はたしかにうまくWindowsの波に乗った。だが、しょせん地方のソフト屋で、致命的に出版印刷の現場の仕組みの基本すらわかっておらず、あたら二十年をムダにして、今日に至った。体裁ばかり、いまさら本社を東京に移し、もっともらしい出版用フォントを同梱しても、プロとして使えないものは使えない。

縦組になればいい、というものではない。日本の印刷物の字組は、活字では号、写植以来はQH(級歯)を単位とする。書類では5号=10.5ポイント=3.70mm。本の写植などでは1Q(行間1H)=0.25mm(クオーター)で、13Q=3.25mmに7~9Hあたりが標準。ところが、一太郎は、最小0.1ミリ単位なので、5号以外、ましてQH単位では、正確に(きれいに)組めない。そのうえ、おそらく内部がPCネイティブの米ポイントであるために、表などに線幅がある、ちょっと複雑な字組だと、5号でも誤差が累積して、字数や余白が合わなくなる。

また、一太郎は、約物(句読点等)処理も、あまりに無能だ。ぶら下げか、追い込みか、というような小中学生の原稿用紙の書き方程度のことはできるのだが、雑誌でよく見かけるような、句読点半角扱いなどができない。つまり、一太郎は、原稿用紙の代用にはなるが、見た目のままにレイアウトできるPDFによる現代のDTP(デスクトップ・パブリッシング)を一太郎でやると、いかにも原稿用紙をポスターに貼付けました、というようなベタなデザインのものができあがる。だから、著者が一太郎で原稿を作っても、結局、それをただのテキストデータに戻して、オペレーターがIndesignに割り付け直し、字数行数を見積もり直して、著者に戻す手間がかかる。

データの構成にも問題がある。初期の20ページ程度のワープロのプログラムのまま、理論的にのみ拡張させてきたせいか、本一冊分の長文になると、すぐ動かなくなる。いや、検索や置換など、ずっと待っていればたしかに結果は出ることもある。しかし、データそのものをジャムってしまうこともあって、とてもおそろしい。20ページ程度の章ごとに分割して作って、PDFにしてから編集すればなんとかなるが、これだと語句統一などの機能が意味をなさないし、そこまでして一太郎を使うほどの魅力が無い。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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