ヘムの一族:チーズは戻ってくる?

画像: Wisconsin Cheese: Wikipedia から

2021.12.05

経営・マネジメント

ヘムの一族:チーズは戻ってくる?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/原題は、おれの御得意客を奪ったのはだれだ? というようなニュアンスが隠されている。そして、ヘムが迷路に行こうとしないのは、その犯人さえいなくなれば、御得意客が戻ってくる、と考えているから。/

『チーズはどこへ消えた?』は、心理学者のスペンサー・ジョンソンが1998年に出版した寓話。全世界で3000万部も売れた。ようするに、表面的な話としては、現状に甘んじていると、そんなうまい話は無くなるよ、早めに変化に対応しよう、ということらしい。

しかし、原題は、WHO MOVED MY CHEESE? で、どこへ、ではなく、だれが。それも、消えた、のではなく、動かした。つまり、無くなったわけではない。また、チーズには、裏の意味もある。ウルドゥ語の chez (モノ)という単語が、インド・パキスタンを支配していた英国人によって、cheese と綴られ、十九世紀に隠語として流行。また、これとは別に、二十世紀に、米国ウィスコンシンのでかいチーズを丸ごと買えるやつ、という意味で、大人物、御大尽をさすようになった、とも言われている。

もとより寓話だから、なんとでも解釈できるが、原題は、おれの御得意客を奪ったのはだれだ? というようなニュアンスが隠されている。そして、ヘムが迷路に行こうとしないのは、その犯人さえいなくなれば、御得意客が戻ってくる、と考えているから。

客足の遠のいた商店街が、郊外型巨大ショッピングセンターの出店に反対していたりする。まるで、人喰い巨人が町を踏み潰しにくる、とでも言うかように。しかし、そんなことをやっている間に、隣町の方が誘致して、商店街からも、こっそりその中のテナントになってしまう店も続出。結局、商店街はシャッター通りとなって、意地で残った店も成り立たず、全滅。

御得意客が戻ってくるもなにも、羽振りの良かった団塊世代は、次々とあの世へ引っ越していってしまっているのだから、あの世代の御用達のデパートはもちろん、観光地、別荘地、住宅地、商店街、そして、新聞や雑誌、ラジオやテレビ、映画や小説、流行歌、ぜんぶダメ。家電も、自動車も、洋服も、旅行も、ムリ。インターネットのせいだ、と言って、こっそりその中に入り込もうとしても、もともと客層が違って、どうにもならない。

コロナは、目眩まし。いくら地位を保って経済的に余裕があっても、団塊世代は、もう体が動かない、頭も回らない。一方、その下の窪み世代は、上の長年の地位占拠で、経営経験も浅く、財産蓄積も無い。さらにその下の団塊ジュニア世代は氷河期で、生活基盤さえ危うい者が多い。いまの若者の多くも、これらの親世代の脆弱さのせいで、いろいろガタガタ。この疫病騒動が終わったところで、かつてのような「賑わい」が戻ってくるわけがなかろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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