ウサギ上がりカメ下がり:土地価格という日本経済の宿痾

2022.07.23

ライフ・ソーシャル

ウサギ上がりカメ下がり:土地価格という日本経済の宿痾

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/流動性を上げ、時代に応じた利用の新陳代謝を図るには、取得からの年数で、どんどん累進するような土地税制にすればいいのだが、そんなことができようはずも無い。結局、だれもなにもできない。もはや何も生み出さない空き地に夢だけを描いている所有者たちが死滅して、相続人たちが投げ出すのを待つしかないのかも。/

上がるのは早いが、下がるのが遅い。このために、高止まりの土地価格が、日本の経済適正化の障害になっている。

おそらくこれは日本特異の問題だろう。ただでさえ狭い国土にあって、その67%が森林。川や湖なども除くと、耕作可能、居住可能な平地は30%も残らない。面積で言うと、日本はドイツよりやや大きいが、平地はその半分以下。そこにドイツの1.5倍もの人口がひしめいている。

かつて一度は公地公民を定めてみたものの、またたく間に、荘園として、有力者たちのぶん取り合戦に戻ってしまった。鎌倉幕府以来、訴訟のほとんどすべてが土地争い。戦後の焼跡闇市でも、成長期の河川整備でも、だれのものともわからないところに、だれかがいつの間にか住み着き、数センチ単位で所有を主張。それで、道路などの公共工事も、その買収に莫大な費用がかかって、遅々として進まない。

減るもんじゃなし、持っていて損はない。日本では、土地はずっと価値絶対的な有限財。それどころか、戦後の人口増大期、経済成長期には、広大な住宅地開発で、原野が実際、巨万の富の源泉となった。新幹線の駅一つで、寒村僻地の連中が、こぞって風呂屋のような御殿を建てられた。だから、商機を逃すまいと、投資家たちが地方の「リゾート地」を競って買いあさり、団塊勤め人の小金持ちまで、チンケな小分けの「別荘地」や「マンション」を高値で掴んで、将来の値上がりを夢みた。

しかるに、いま、人口減。日本の歴史始って以来の大変動だ。それも、社会の中核となるべき世代の人生設計を、氷河期として破壊した。いくら高速道路を作ろうと、格安飛行機を飛ばそうと、人が地方から逃げ出し続けている。遊びにも行かない。高齢化で町から商店街が消え、駅前からもデパートが撤退消滅。かつての一等地も空き地だらけ。その合間を走り回るは、通販配達のトラックのみ。

それなら都会は安泰か、というと、そうでもない。こんな時代、新規に事業を興しても、まず売れない。まして、飲食店など、コロナ騒ぎもあって、どうにもならない。にもかかわらず、先行投資として、土地所有者たちがやたら巨大なビルを建てまくってしまったから、その賃貸料が法外に高い。それで、いよいよ新規事業、新規開店など、どう考えても、採算の見込みが立たない。

教科書的に言えば、地方も都会も、需給均衡まで価格が下がるはずなのだが、そうはならない。利益が出ないと、政府の標準公示価格だけは、きちんと即座に適正な水準にまで下がるから、持っているだけの遊休地、空きビルでも税負担が軽い。また、有限財だから、いったん手放してしまうと、必要になってもふたたび手に入れることは難しい。そもそも地元に地縁血縁土地勘がへばりついており、劣勢になるほど、カルト的に仲間内で、まだじつは価値がある、いや、これから復興する、復興させる、などと、実の無い妄想で盛り上がって、現実を直視しない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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