試験に出る!いま熱い古代東西交流史(2)

2021.08.20

開発秘話

試験に出る!いま熱い古代東西交流史(2)

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/「世界史」というと、山川の教科書ですらいまだに、それは近代になって成立した、などと言う。しかし、地域史をつぎはぎにしていても、世界史は見えてこない。東西交流史を理解するには、最初から全体像を概観的に掴む文明論的視点、地球儀的思考が求められる。仮説的ながら、あえてその概観を試みてみよう。/

つまり、彼らはもともと、先のフェニキア人、後のノルマン人などと同様の海の遊牧民であり、貿易か漁労の状況の変化で移動したのだろう。黒海や地中海の沿岸漁村を急襲する海賊は得意だったのかもしれない。だが、内陸ダキアでの陸戦はどうしたのか。それも、相手は、先進文化のローマ大帝国。記録には無いが、隠れ匈奴、フン族の弓騎馬傭兵に頼った、としか考えられない。

海の遊牧民として、彼らは、かつてのスキティア王国以上に、トラキアからバルカン半島を東西に横断してアドリア海に出るルートを必要としていた。そのために、ダキアの鉱物利権、ないし、そのローマの補償金という未収資産を担保にするLBO(レバレッジド・バイアウト、奪う資産で返済を約束)で、フン族から弓騎馬傭兵を借りたものの、いっこうに成功せず、フン族の取り立てを食らったのではないか。それが、敵対していたローマに逃げ込んでも、よい扱いを受けられるわけがない。

ローマ側に関しても同じような状況で、四分統治を強いられるほど、内政にまとまりを失っていた帝国が、全方位に広がりすぎた周辺国境をすべて自力で守れたわけがない。やはりフン族の弓騎馬傭兵を使って、ゴート人の侵略に対する防衛を行っていたのだろう。そして、これもまた支払いができず、フン族アッティラ王は、東ゴートに続いて、取り立てのためにローマに来襲し、433年、鉱物資源の宝庫であるダキア山地を含むパンノニア(現ハンガリー)を差し押さえ、そのうえで、帝国から、毎年金250キロ(十億円相当くらいか)を貢納(返済)する約束を取り付ける。

この後、アッティラ王は、サーサーン朝にも取り立てに行くが、コーカサス山脈の南で敗退。この隙に、ローマは姑息にも、教会を使ってパンノニアに入り、フン族の神聖な墳墓を暴いて、そこに隠されていた財宝を奪う。アッティラ王はいよいよ激怒してヨーロッパに取って戻り、バルカン半島を南下。443年、首都コンスタンティノープル市を攻囲。皇帝は、金2000キロの賠償金と毎年金700キロの貢納(返済)を認め、アッティラ王に引き上げてもらった。いずれにせよ、このことからフン族の目的は、破壊や略奪ではなく、カネだったことがわかる。

ところが、ローマは、449年、アッティラ王の暗殺を試みて失敗、翌450年には貢納も止めてしまう。451年、カタラリウム(パリ市の東100キロ)で、ローマ大帝国は残る配下のゲルマン人フランク族や西ゴート族、ブルグンド族、サクソン族を掻き集め、アッティラ王と決戦。双方の消耗に終わり、翌52年、アッティラは続けて西ローマ分帝国の首都だったはずのミラノ市を襲撃。しかし、西分皇帝は逃亡した後。そこで、アッティラ王はさらにイタリア半島へ南下し、帝国の原点ローマ市をめざす。もはやローマ大帝国側には、なんの手駒も無い。にもかかわらず、ロンバルティア平原のポー川の手前で、皇帝ではなくローマ教皇レオ一世が会見し、ふたたびアッティラ王を引き上げさせることに成功した。

とはいえ、教皇の威光でアッティラ王が引き上げた、などというわけがあるまい。コンスタンティノープル市攻囲を解かせたとき以上の破格の条件をローマ大帝国が提示し、これをローマ・カトリック教会が裏書保証した、というのが真相だろう。

しかし、あまりに多くの部族を配下に収め、慣れないヨーロッパのあちこちを駆け巡ったフン族の中では、疫病が蔓延。翌453年、パンノニアに戻ったアッティラ王も、自身の結婚式の席で死去。おそらくローマ側による暗殺。翌年には、配下の部族から反乱が起こり、フン族帝国は瓦解。歴史から消えてしまう。


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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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