「顧客体験(CX)が重要だ」「これからはサービス化の時代だ」――。 今や、どの企業の経営会議でもこうした言葉が飛び交っています。しかし、その意欲とは裏腹に、現場は依然として忙しさに追われ、改善は属人化したまま、戦略が価値として積み上がらないという現実に直面しています。 「分かっているのに、できない」。この停滞を招いている原因は、意外なほどシンプルです。その仕事を、誰も正式に担っていないからです。 今回は、この「誰も扱ってこなかった空白の領域」を担う専門職、「サービスサイエンティスト」の具体的な役割について解き明かしていきます。
「あいだ」に横たわる未踏領域を扱う
サービスサイエンティストは、よく外部のコンサルタントや、現場の改善担当、あるいはUXデザイナーのような職種と混同されますが、そのどれとも決定的に異なります。
彼らが主戦場とするのは、組織の中に存在する「あいだ」の領域です。
• 「戦略」と「現場」のあいだ
• 「企業」と「顧客」のあいだ
• 「理想」と「実装」のあいだ
これまで日本の組織では、この「あいだ」に落ちる課題は、現場のセンスや個人の努力によって何とか埋められてきました。サービスサイエンティストは、この見えない価値の源泉を可視化し、言語化し、構造化することで、誰でも扱える「設計対象」へと変える役割を担います。
サービスサイエンティストが担う「3つの中核的な役割」
具体的に、サービスサイエンティストは組織の中で何を行うのでしょうか。その役割は、大きく3つの専門性に集約されます。
1. 「見えない価値」を再現可能な設計図に落とす
サービスの現場には、ベテランの勘や暗黙知、あるいは「空気感」といった目に見えない価値が溢れています。これらは素晴らしい資産ですが、そのままでは属人化し、組織としての継承ができません。 サービスサイエンティストは、これらの価値を「どこで、どの期待に対して、どんな体験を、どの順序で提供しているのか」という要素に分解します。センスを論理的な「設計図」に変換することで、初めてそのサービスは「教育可能」で「改善可能」な組織能力へと進化します。
2. 顧客の「事前期待」を読み解き、価値のズレを防ぐ
サービスの評価は、提供された瞬間ではなく、実は「提供される前」に決まっています。顧客が何を期待し、どこに不安を感じているかという「事前期待」を見誤ると、どれほど手厚いサービスも「おせっかい」や「的外れ」になってしまいます。 サービスサイエンティストは、顧客自身も言葉にできていない期待の構造を的確に捉え、価値が正しく届くように体験を設計します。これは、単なるマーケティング分析や現場のヒアリング力とは一線を画す専門性です。
3. 異業種事例から「構造」を抜き出し、自社に翻訳する
多くの企業が他社事例を参考にしますが、その多くは同業他社に限定されがちです。しかし、サービスの本質的なヒントは、むしろ異業種にこそ眠っています。 ここで重要なのは、表面的な仕組みを真似るのではなく、「なぜそのモデルで価値が生まれているのか」という構造だけを抜き出し、自社の文脈に翻訳する力です。この役割が不在のまま流行りの手法を導入しても、「〇〇っぽい」だけの形骸化した施策で終わってしまいます。サービスサイエンティストは、異業種の成功を「自社で実装可能な知」へと変換する翻訳者なのです。
新刊『事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~』
| 提供会社: | サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング) |
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2009.02.10
2015.01.26
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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