バウムガルテン『美学』とは何か:イメージの論理学

2021.03.12

ライフ・ソーシャル

バウムガルテン『美学』とは何か:イメージの論理学

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/〈理性〉は、万人万物に共通であり、理神論として、マクロコスモスである世界をも統一支配している。しかし、その大半は深い闇の向こうにあって、人間の知性の及ぶところではない。だが、人が、徳として、どんなイメージをも取り込む偉大な精神、感識的地平をみずから持とうとするならば、その総体、イメージ世界は、神の壮大な摂理をも予感する、理性の似姿、〈疑似理性(analogon rationis)〉となる。/

 この検討のために、第五章は、それだけで本一冊分もの分量があり、その中がさらに細かく分けられている。

  •    第五章 一般論
  •        特殊論 α 感識的な暗さ
  •           β 感識的な陰影
  •           γ 光と影の正しい分配
  •           δ 感識的な色合
  •           ε 感識的な虚飾
  •           ζ 図解的な証示:類似・大小・対置・比較、転義
  •           η 感識的な啓発法(タウマツルギア、thaumaturgia)

 ここで興味深いのは、バウムガルテンは、なんでも明晰ならいいとはしていないことであろう。《論理学》と同様、明晰さは、対象として捕捉できるか、だが、イメージは、もとより混成で、そこに複数のものを含んでいる。そこで、それらが協感できるように、テーマとなるイメージの絶対的明晰さとともに、それ以外のイメージについては、むしろ相対的な陰影、メリハリが必要となる、とされる。

 また、その混成において、華やかにまとめるのか、素っ気なくまとめるのか、などが問題となるが、わかりえない国際情勢をわかりやすく説明するニュースのような演出は、虚飾とされる。いずれにせよ、ここでは、どんな程度の観客にイメージを伝えたいのか、によって、是非が異なってくる。さらに、《論理学》の証示(argumenta)を、このイメージ混成に適用すべく、「修辞学」の趣巧((figura)をそれとする。(イラストは、直接には、明るくするもの、ということだが、17世紀にはすでに図解の意味で使われている。)

 そして、最後が《啓発法(タウマツルギア(θαῦμα+ἐνέργειαで、驚嘆+活動))》。直感的にはそうは思えないことを、そうだと思わせる。だから、ふつうは、手品のようなイカサマを意味するが、ここでは、連想としてつながっていなかったイメージをつなげて、観客がつねに連想するようにさせること。いわゆる、へぇー、という感心だ。よく知られた物事でも、光の当てよう次第で、新鮮なイメージで観客を惹きつけることができる。

 第六章⑤「感識術的な説得」は、《論理学》の〈判明(distincta)〉に代えて〈直明(evidentia)〉を言う。前者は納得(convictio)させるが、後者は説服(persuasio)させる。というのも、感識的地平では、疑似理性の連想で、である、ではなく、でありそうだ、と思わせるにすぎないから。その方法は、イメージの確認(confirmatio)か、非難(reprehensio、観客の持つイメージを偽とする)か。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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