日銀政策への疑問(3)ゼロ金利政策は何のためか、誰のためか

画像: Petra Wessman

2018.10.24

経営・マネジメント

日銀政策への疑問(3)ゼロ金利政策は何のためか、誰のためか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「消費者物価指数(CPI)で見たインフレ率が年平均で2%を突破するまで『ゼロ金利政策』を続ける」という黒田春彦・日銀総裁。その金融政策への「突っ込み」の第三弾として、『ゼロ金利政策』は実は一般の生活者からの収奪で、緊急避難的措置だったはずなのにずっと続けられているのは何故かという点について考えてみよう。

しかしながら金融機関の調達コストが極端に抑えられているということは預金金利がほぼゼロだということでもある。実際、バブル期には2%を超えていた普通預金の金利は今0.02%前後だそうで、100万円預けても年間で200円の利息しか付かず、うっかり他行のATMでお金を引き出しただけで吹っ飛んでしまうほど「雀の涙」の額だ。

つまりゼロ金利政策で一番損しているのは一般の預金者=生活者なのだ。「日本経済が混乱に陥るのを避けるため、緊急避難的に」、彼らが「得べかりし金利」を極端に低く抑えることを我慢して欲しいと言われたのが、なぜかずっと続いているのだ。

つまりゼロ金利政策の最大の副作用は一般の生活者の収入減であり、その結果としての消費抑制なのだ。ましてや定常的所得がほとんどなく、いざというときには過去貯めてきた「虎の子」の預金に頼らざるを得ない年金生活者などにとっては随分な扱いといえる。

それなのになぜ「庶民の味方」を自負するマスコミや政治家はこの点を訴えないのか。彼らが訴えるのは精々、「住宅ローンがお得に借りれますよ」というごく一部の人たちにとってのメリットだけだ。かなり偏っていると言わざるを得ない。なぜか。それはこの政策で不当に得をしている人たちが誰かを考えればよい。

フェアに云って、『ゼロ金利政策』というのは、圧倒的多数の一般預金者から広く薄く金利分のお金を奪って、それを企業セクターに移転させている「社会的補填」なのだ。企業セクターの中でも一番得をしているのは、大きな資金需要があって金利安のメリットを大いに享受している一部の大企業と、本来なら融資を受けられずに倒産するしかないはずの経営不振の「ゾンビ企業」だ。後者の多くは零細・中小企業だと考えられる。

このどちらも政治力とマスコミへの影響力がある。大企業は政治献金とマスコミへの広告費等を通じて直接的に、ゾンビ企業は地元に倒産を増やしたくない政治家の心情とマスコミの「弱者の味方気取り」によって間接的に、それぞれ守られている格好だ。

しかし大企業にいくら親切にしてやっても内部留保に回るだけでトリクルダウン効果はないことが既に分かっているし、ゾンビ企業には早く市場から撤退してもらって新陳代謝を進めたほうが過当競争や人手不足に苦しむ日本経済全体の最適化には近づくだろう。つまり、多くの生活者の収入を奪ってまで大企業とゾンビ企業を守ってやる社会的意義はほとんどないのである。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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