『インターステラー』を読み解く

2017.11.01

ライフ・ソーシャル

『インターステラー』を読み解く

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/「星」は物語。テサラクトは図書館。SFの見せかけに騙されるな。安っぽい商品物語に耽り眠るな。穏やかな夜に身を委ねてはならない。/

 物語は神秘的な体験だ。我々は、その世界の時間に没頭し、自分の時間を忘れる。戻ってきたときには、陽が暮れ、夜が更けてしまっている。しかし、我々の想像力は、この現実という諦めを飛び越え、別の「星」へ行くことができる。それこそが、人類を救う道。だが、いくら本を外側から表紙だけを見ていても、なにもわからない。中をくぐり抜けた者しか、報告を返すこと、道筋を伝えることはできない。

 時空を越える五次元の中の四次元テサラクトは、図書館そのもの。「彼ら」というのは、物語の読者たち。読者たちこそが、主人公をテサラクトに導く。この話からして、もともとメタな物語。だから、空間に時間、さらにパラレルな物語を含む五次元。そして、この物語宇宙を横断する「図書館」を通じてクーパーは、未来の希望を、娘マーフィに本で伝える。父親のメッセージを、娘マーフィは本で受け取る。本を通じ、マーフィは、自分を置いて去ってしまった父親が、ずっとすぐそばにいてくれていたことを知る。

 本として、クーパーは、約束通り、老いたマーフィのもとに戻った。だが、「彼ら」の一人、つまり、死を目前に控えたマーフィは言う、また行って、と。クーパーの同僚アメリアが一人降り立った第三の可能性の星は、作者も死んで忘れられた、しかし、いまなお多くの読者を待っている物語。そこへクーパーは、老いてなお、再び旅出つ。

 ある意味で、すべては、娘マーフィの頭の中での出来事。失った父親が、彼女の想像力の中では、物語のヒーローとなり、宇宙を旅して、さまざまな星を遍歴し、それでいて、すぐそばにいていつでも知恵と勇気と希望をくれ、なおまた、いまも旅を続けている。本の力、物語の力とは、そういうものだ。この『インターステラー』もまた、先に『インセプション』(2010)を作ったノーランらしい構造。

 SFの見せかけに騙されるな。安っぽい商品物語に耽り眠るな。穏やかな夜に身を委ねてはならない。陽が沈むときこそ、人が燃え上がるべきだ。絶えゆく光を断じて許すな、断じて許すな。我々に宇宙船もタイムマシンも必要無いのだ。人間の想像力は、いともかんたんに時空を飛び越えることができる。『ある日どこかで』(1980)のように、ただ念じるだけで、物語世界の中に没入することができる。しかし、我々は、帰ってくるのでなければならない。中の報告を返し、残る人々にも道筋を伝えるのでなければならない。だから、それを、ここにこうして書いておこう。そして、読書の秋(とき)、この現実という「星」を遠く離れ、別の「星」へと、きみも想像力の旅をしてみよう。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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