古代ローマの欺瞞とイエスの理想

画像: photo AC: RRICE さん

2017.06.28

ライフ・ソーシャル

古代ローマの欺瞞とイエスの理想

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/古代ローマはきれいごとの一方、裏はドロドロ。他人との関わりを断つ懐疑主義、快楽主義、禁欲主義がはやった。まして、当時、選民かぶれのユダヤは憤懣と隠謀と混乱が渦巻いていた。その地でヨハネの後に現れたイエスは、むしろ神のしもべとして人を救うために働くことを教えた。その意味をパウロが理解したとき、彼はイエスこそが神だと確信した。/

不信の悪循環

 蓋をすれば実は腐る。古代ローマは、巨大な版図とともに、多様な文化を許容しなければならなくなった。世界国家、民族平等、民主主義、と、建前は華々しいが、Wスタンダードどころか、そのときどきにどこかの州邦の理屈を持ち出すことで、ホモでもレズでも、一夫多妻でも一妻多夫でも、不倫でも乱婚でも、なんでもありの倫理崩壊。その一方、外で公言はしないものの、これらを心底で嫌う民族保守主義はかえって強化され、社会相互の偏見と反発と分断は、より陰湿になった。

 政治は、さらに陰惨。正義を高く唱いながら、まさにその正義の名において、あること、ないこと、言い立てて政敵を叩き潰す邪悪な隠謀や煽動が横行。さらには、カエサルがやられたように、集団暗殺さえも躊躇しない。恩も仇で返される、というより、最初からすべてワナ。応援してやろう、ファンなんです、なんて、みんなウソ。世話になってむしり取り、そいつを売ってまたむしり取ろうという二重取り目当てのやつらがすり寄ってくる。気を良くして中に入れたら最後、さんざんいいように利用し尽くした上で、こいつ、こんなこと言っていた、やっていた、と、さも以前は昵懇で、内情もよく知ったかのように、でたらめを言いふらして、かつての政敵、次の標的に乗り換えて、またむしり取る。

 ようするに、人が信じられない。それどころか、身近なヤツほど、うさんくさい。自分が裏切りを企むように、だれもが裏切りを企んでいるに違いない。だったら、こっちが先に裏切ってどこが悪い。やられる前に、やってしまえ。こうして、不信感の疑心暗鬼は、現実のものとなり、古代ローマは、オオカミがオオカミを襲い合って食い殺すような、裏切りの悪循環を起こした。

 だから、こんな時代、無事に生きるための思想がはやった。一つは、懐疑主義。誰にも恨まれないよう、なにごとにも白黒つけず、のらりくらりとボケたふりをしながら世を渡る。もう一つは、快楽主義。世間の物事に主義主張などいっさい持たず、むしろ露骨にその時々の損得のみで動くことを公言し実行する。けっして尊敬されないが、これはこれで恨まれない。そして最後は、禁欲主義。もっと注意深い。所与の中だけでどうにかする。いくら得でも、よけいなことには手を出さない。ようするに、いずれも他人との関係を最小限に絞り込んで身を守ろうとするもの。しかし、こんなことをしたところで、孤立する者ほど標的となり、マウンティングの踏み台として集団の餌食にされた。

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学 哲学教授

我、何を為すや。忙しさに追われ、自分を見失いがちな日々の中で、先哲古典の言を踏まえ、仕事の生活とは何か、多面的に考察していく思索集。ビジネスニュースとしてシェアメディア INSIGHT NOW! に連載され、livedoor や goo などからもネット配信された珠玉の哲学エッセイを一冊に凝縮。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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