海外戦略方針は為替に左右されてはいけない

画像: Dónde invertir Dinero

2015.03.24

経営・マネジメント

海外戦略方針は為替に左右されてはいけない

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

円安のせいで海外進出・海外M&Aが抑制気味になっているとしたら日本企業にとっては危うい。個別案件が為替に左右されるのは仕方ないが、海外戦略方針自体は為替動向ではなく長期視点で腹を括るべき。

最近、大手M&Aアドバイザー企業に勤める知人と話す機会があった。円高時にはオーバーヒートといってもいい状態にあった海外M&Aの案件数が、このところの急激な円安のせいでかなり減少気味とのことで、少々ボヤいていた(もっとも、きっと海外企業からの日本企業買収の案件は増えているだろう)。

実は弊社では逆なのだ。むしろ日本のクライアント企業のための海外企業に対するM&Aもしくはパートナー探しの案件がこのところ増加気味なのだ(その逆も同様)。もっとも、その知人の企業と弊社では元々の案件数が格段に違うので、むしろ彼の話が日本企業のすう勢を示しているのだと思う。そしてこれは日本企業ならびに日本経済にとって危険な兆候だ。

知人は不思議がっていたが、弊社のクライアント企業は決して「変人」会社ではない。むしろ全般的にはごく普通の企業だ。ただ普通と違うのは、それらの大企業が海外市場でのパートナー企業探しに本気になったのはごく最近であり、むしろ世の中のすう勢からすると若干遅れ気味だったに過ぎない。

もちろん理想を云えば、2年以上前までの円高時であれば割安に資本参加(またはより多くの株式を取得)できたはずだが、その時には彼らの意思が十分確立していなかったのだ。社内の体制も揺らいでいたようだ。

それに対し、いずれの会社も今は、「ここで本気になって攻めないことにはいつまで経っても埒が明かない」「自力だけでは強力な競合相手を凌ぐ市場開拓は無理」と、ようやく腹が据わったのだ(我々が説得したのも事実だが)。つまり当該社にとっては海外M&Aの「適切な時」が来たのであって、その意思には為替は直接関係ないのだ。

多くの会社がここで間違える。

日本の大手・中堅の製造およびサービス企業が円高に押されるように、我先にアジア諸国に拠点を設けようと進出したのは記憶に新しいと思う。それが、昨今は反動時期に来ている模様だ。中国では人件費急増や反日デモに悲鳴を上げ、それで逃げ出した先のタイではクーデターで市場の先行きが見えなくなって途方に暮れている、といった図だ。

戦略方針を確立しないまま腹も括らず、「ブーム」に浮かれて進出したところは今、苦境にあって苦しんでいる。進出時は円高だったので、拠点設立コストやパートナー企業への資本参加は割安に済んだかも知れないが、進出自体に失敗しては元も子もない。

反対に、今は円安に反転したからといって海外進出をあきらめるのも素直には頷けない。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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