近代化と人権の抑圧(後半)

画像: ハリエット・ストウ(小説家)

2025.11.14

ライフ・ソーシャル

近代化と人権の抑圧(後半)

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/歴史的な差別を近代が解放した、というのは、捏造された近代の神話だ。むしろ近代化こそが、人間の標準理想像をあまりに狭く画一的に定義したために、同調圧力によって、そのミドルクラスモラリティから漏れる人々を社会から排除し、かえって人権抑圧を引き起こした。この独裁者無き全体主義と戦うために、多くの人道思想家たちが自分自身の人生を賭けて奔走した。/

26.12. 帝国主義:1900年頃

 米国は1880年代には長期不況から脱し始めました。その原動力となったのは、ヴァンダービルト(1794-1877)、カーネギー(1835-1919)、ロックフェラー(1839-1937)といった鉄道、鉄鋼、石油などの分野に君臨したケタ外れのタイクーン(大君)たちでした。彼らはカルテル、トラスト、コンツェルンなどの仕組みを駆使して、マネーゲームを勝ち抜きました。彼らは「強盗男爵」とも揶揄されましたが、じつは賎しい身の上から地道な努力によって身を起こした真の資本家でした。この「金メッキ時代」に、彼らは豪華な邸宅や贅沢品で成功を誇示しましたが、同時に、余剰資金を惜しみなく寄付し、自らの名を冠した大学、病院、文化施設などを建設しました。

「贅沢な消費は需要不足を緩和した」

 人々は彼らに憧れ、自分も成功しようと彼らをまねました。世界各地で開催されたさまざまな博覧会は、人々に最新技術や超高級品を紹介しました。新しくできた百貨店は、世界中からこれらの高級品を集め、人々がそれらをただ見るだけでなく、買うこともできるようにしました。こうして、人生の成功を象徴するさまざまな大量生産の高級ブランドが登場しました。たとえば、ルイ・ヴィトンは、ミドルクラスの詰め込み旅行に耐えられるスーツケースを開発し、博覧会で宣伝して、世界に事業を拡大しました。ロレックスは高級防水腕時計を作りましたが、ほんとうの富裕層はそもそも手を濡らしたりせず、時間も気にせず、むしろ他人を自分に従わせたのですが。

「大量生産の高級品なんて、矛盾してるよ」

 シカゴ大学のヴェブレン(1857-1929)は、1899年の『有閑階級論』で、富裕層の消費は一種の社会的分業であり、下層に代わって消費しているのだ、と皮肉を込めて論じました。ハイデルベルク大学のマックス・ウェーバー(1864-1920)は、1905年の『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で、勤勉を信仰の証と考えるプロテスタントが資本蓄積を可能にした、と主張しました。しかし、ベルリン商科大学の友人、ゾンバルト(1863-1941)は、資本主義を生み出したのはプロテスタントではなく、ギルドという安定した市場から排斥されたユダヤ人たちであり、彼らがその市場を破壊することによって資本主義を築き上げた、と反論しました。彼はまた、近世の貴族の量的浪費が、現代都市ブルジョワジーの小さな質的贅沢へと変化し、それで、それが際限なく追求されるようになった、と考えました。

「思弁的なマルクス主義とは違って、彼らの思想は歴史と現実の調査に基づいていた」

 しかし、顕示的消費は、すぐに国内市場を飽和させました。しかし、小さな質的贅沢品は容易に輸出できるため、各国は、世界中の未開発の植民地市場を奪い合い、その住民を贅沢に溺れさせ、代わりに、彼らはそれらの地域の資源を搾取しました。とくにアフリカでは、奴隷を調達するのではなく、人道支援を装って侵略を行いました。彼らは先住民を身長に基づいて異なる「人種」に分類し、背の高い人々を文明に近いとみなして統治に利用しました。さらに、日本、エチオピア、中東などの国々に大量の武器を売りつけ、表向きは独立と改革を支援すると称しましたが、しかし実際には紛争を煽って、これらの国々に負債を負わせ、それによって自国の支配を強化しました。

「人道主義が侵略の正当化に利用された」

 シベリア流刑から解放されたマルクス主義者のレーニン(1870-1924)は、1900年にスイスに亡命しました。彼は、成金から雇われ経営者、機械工まで、すべての国民を統合する各国のナショナリズム台頭にいらだっていました。そこで、彼は、財産を持たないプロレタリアートは、第三の職業革命家である共産主義者という知識人によって世界的にブルジョワジーから分離されるべきであり、国際共産党が世界のブルジョワジーに代わって資本を独占的に管理すべきだ、と考えました。当時、元教師だった若いムッソリーニ(1883-1945)は、スイスで新たな職を探しており、レーニンの影響を受けました。

「レーニンが構想した共産党は、もはやマルクスの労働者共同体ではなかった」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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