競争優位性の土俵では、新しい機能やキャンペーンはすぐに他社に模倣され、時間とともにその差は縮まり(優位性が時間と共に減る)、企業は息切れしがちです。 これに対し、共創優位性の土俵では、顧客との共創経験が積み上がり、新たな事前期待が立ち上がり、価値が進化していくため、時間が経てば経つほど、そのサービスでなければならない理由が強化されていきます。
競争優位性(competitive advantage)とは、簡単に言えば「他社に勝つ力」です。かつて日本にモノや機会が不足していた時代には、顧客のニーズという旗に向かって全力疾走し、いち早く旗を抜いた企業が勝つという「ビーチフラッグ」のような競争が機能していました。
しかし、市場が成熟した今、企業間で提供されるサービスレベルは同質化し、差がつきにくくなっています。結果として、業界全体が、開発スピードやコストパフォーマンスを競い合う消耗戦、すなわち過当競争の泥沼に沈んでいくことになります。
この競争の土俵にいる企業の多くは、受注を「クロージング」(仕事の終わり)と呼びがちです。この言葉が象徴するように、受注を以て競争が終わり、自らの仕事が終わるというスタンスになります。商談中は熱心に対応しても、契約を締結した途端に顔を出さなくなる営業担当者の事例に見られるように、他社に勝つことに注力するあまり、いつの間にか顧客の事前期待を見失ってしまうのです。競争優位性は、その終着点が「比較検討」と「クロージング」に設定されているがゆえに、常に疲弊と次なる差別化を強いられるという呪縛を抱えています。
共創優位性という「次の土俵」の本質
競争優位性の土俵から抜け出すために目指すべきは、共創優位性(co-creative advantage)という次の土俵です。
共創優位性は「他者と生み出す力」です。顧客にとっての価値や成功体験、そして顧客の未来を一緒になって生み出す共創のパートナーとして選ばれることを目指します。
共創は、「守・破・離」でいうところの競争からの「離」といえます。闇雲な競争からセオリーに則って競争優位性を高める「守」、他社を打ち破る「破」、その先にあるのが競争優位性の土俵からの「離」です。
共創優位性が確立されれば、顧客はもはや他社との比較をしません。一択で我々を選んでくれるようになります。受注は仕事の終わりを意味する「クロージング」から、顧客との共創の「オープニング」へと様変わりします。
構造的転換点:目線と評価軸の違い
競争の土俵と共創の土俵が決定的に異なるのは、その構造、特に「目線」と「評価の軸」が異なります。
競争優位の目線は「横・他社とのGAP」にあり、他社と比べて優れているか、差をつけられているかが問われます。しかし、共創優位の目線は「前・顧客の未来へのGAP」へと変わります。
共創優位では、顧客の成功や自己実現の「事前」に焦点を当てます。顧客がこのサービスを利用し続ける真の理由、顧客が「どうなりたいか」「どうありたいか」という未来形の事前期待を意識するのです。
新刊『事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~』
| 提供会社: | サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング) |
|---|
関連記事
2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
フォローして松井 拓己の新着記事を受け取る