近代化と人権の抑圧(前半)

画像: フレデリック・ダグラス(黒人思想家)

2025.11.03

ライフ・ソーシャル

近代化と人権の抑圧(前半)

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/歴史的な差別を近代が解放した、というのは、捏造された近代の神話だ。むしろ近代化こそが、人間の標準理想像をあまりに狭く画一的に定義したために、同調圧力によって、そのミドルクラスモラリティから漏れる人々を社会から排除し、かえって人権抑圧を引き起こした。この独裁者無き全体主義と戦うために、多くの人道思想家たちが自分自身の人生を賭けて奔走した。/

26.02. マチズモ的人間観

 主婦は家の中をなんでも切り盛りしていました。農場で採れた資源を活用し、紡績、製粉、醸造などの小さな家内工業も営んでいました。それで、男たちが十字軍や長距離貿易遠征に送り出されました。同性愛的な騎士団を模して、都市では男たちが商業ギルドを組織し、有力貴族を巻き込みながら、世俗的な騎士道精神として地域全体にネットワークを広げていきました。マチズモに酔った男たちは、守るべき対象として貴婦人を女神のように崇拝しました。実際、彼女たちの寵愛を受けることで、彼らは特権的な商業機会を得ることができ、さらに貴族の娘と結婚できれば、莫大な富が手に入りました。

「女性相続権が悪用され始めた」

 十字軍の失敗、都市の発展や疫病の蔓延、教会の衰退は、ルネサンス期の人々に大きな自由をもたらしました。しかし同時に、女は官能的であっても知性的ではないというプラトン的な女性蔑視も復活させました。カトリック教会は、信仰を強化するために、異端者を魔女として火刑に処しました。さもなければ、狂人は、牢獄やロンドンのベドラムのような特殊施設に収容されました。ローマ教皇の権威から人々を解放した酔っぱらいのルター(1483-1546)は、元修道女の妻の尻に敷かれていましたが、カルヴァン(1509-64)は、フィレンツェのサヴォナローラ(1452-98)のように、純粋な信仰を求めました。彼の信奉者たちは、仕事の成功こそが救済の証だ、と信じ、逆に、貧民や病人、主婦でさえも、カネを稼がないやつは人として劣り、神に見捨てられた者とみなしました。

「これが近代の宗教的な選民主義だ」

 貨幣経済の発展は税収を増加させ、王族は、官僚制と常備軍を確立して、男女ともにもう自分で働かなくてよくなり、貴族や商人に対して、有閑階級の贅沢を誇示するようになりまし。同様に、貴族の娘と結婚した大商人たちも、貴族から資本を得て、広範囲から原材料を調達し、農村から余剰労働者を雇い入れ、工場を建設しました。しかし、都市におけるブルジョワジーの地位を確立した彼らは、王族のように、貴族の妻や娘に贅沢品を提供しなければならなりませんでした。

「それは近世の寄生的なアンシャン・レジームだな」

 一般の妻や娘たちは男たちと同じように働いていましたが、彼女たちの作った製品は、せいぜいそれを売りに行く男の名前で知られる程度でした。また、多くの女性職人、女性芸術家、女性作曲家もいましたが、彼女たちの名前は記録にも残っていません。ボローニャ大学のように医学、数学、物理学の分野で活躍する女性教授を擁する大学もあったにもかかわらず、フランス学士院は、かたくなに女性の入会を拒否し続けました。たびかさなる戦争と貨幣経済の浸透は、男性人口の減少と自作農や下級貴族の没落を招きました。そのため、女性の半数は、独身で身寄りもなく、女宰や愛人、女中、労働者、あるいは娼婦として生きるしかほかありませんでした。

「男たちが世間を支配し、女を排除した。バッハの作品の中には、実際には彼の若い妻が作曲したものもあると言うよ」


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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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