単なるIT(情報技術)による業務プロセスのデジタル化を「DX」と呼ぶのは間違っている。それを分かっていながら宣伝している行為は欺瞞でしかなく、「言った者勝ち」文化に染まったIT業界の悪い体質がまた露呈している。
しかしこの電子化されたデータを社内の受注処理システムに手動でいちいち転記している中小企業は未だに少なくない。それは「デジタイゼーション」レベルに留まっている状態だ。
図の真ん中に位置するのが「デジタライゼーション」、すなわち先に述べた「ITによる業務プロセスのデジタル化」であり、それによる効率化を狙うものだ。
先に述べた例にならえば、注文データを転記することなく(半)自動で社内の受注処理システムに取り込むことができる状態で、さらに会計処理につなげることはもちろん、製造指示や調達の業務プロセスに(転記することなく)つなげることができるところまでは進んでいるのが大企業では普通だ。
業務プロセスさえしっかりしていればミス撲滅も省力化もかなりのレベルまでできる。しかし残念ながら顧客にとっての直接的な価値にはつながっておらず、ビジネス拡大にも貢献しづらい。省力化やコスト削減が精一杯だ。世の中にある「DXもどき」はこのレベルに留まるものが大半だ。
ちなみに、AIやデータサイエンス技術などの先端ITを使っているからといってDXと呼ぶに値する訳ではない。先の例でいえば、注文データを基にAIで受注傾向を分析して事前に繁忙期の人繰りを調整することは、確かに無駄なコストを抑制するのに効果を発揮する。しかし、だからといってビジネスモデルが抜本的に変わる訳でも、ましてや本質的な競争力強化やビジネス拡大につながる訳でもない。それは「DX」と呼ぶべき代物ではない。
これらに対し、本来の「DX」は図の一番右に位置する「デジタルトランスフォーメーション」だ。先に触れたように、デジタル技術を使って事業そのものを抜本的に変革することで、競合の先を行って競争力を高め、それによって収益力と事業価値を高めるものだ。
先の例にならえば、例えば受注データや社内の製造スケジュールデータと連動して、顧客の製造や販売において最も無駄がないタイミングで納品することで、「この会社に発注するのがベストだ」と顧客が納得して(他社に発注していた分を切り替えて)当社への発注量が増える、といった成果を生むことができる。
別の例を挙げれば、例えば従来の製品では満たされていなかったセグメントに向けた新商品を生成AIなどを使って開発し(その過程では市場調査・分析や仮説の検証にもITを効果的に使い)、商品ラインアップを充実させて収益を拡大するということも可能だ。
経営・事業戦略
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
