日鉄が執るべき事態突破策

2025.01.09

経営・マネジメント

日鉄が執るべき事態突破策

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

大統領による禁止命令を受けた日鉄のUSスチール買収計画。このままでは失敗は目に見えている。この事態をひっくり返すことができるのは誰か、そのために必要なことは何か。実践的に考えれば有効な対策は一つしかない。

日本製鉄(以下、日鉄)による米鉄鋼大手USスチール(以下、USS)の買収計画に対しバイデン大統領が禁止命令を出したことを受け、日鉄はUSSと連名で6日、バイデン氏や対米外国投資委員会(CFIUS)など米国政府を相手取り、禁止命令を無効とし法的義務を果たす審査を改めて行うよう求める行政訴訟に踏み切った。

日鉄とUSSは併せて、競合である米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(以下、クリフス)とそのCEOであるローレンソ・ゴンカルベス氏、全米鉄鋼労働組合(USW)のデビッド・マッコール会長に対しても、買収計画を阻止するために反競争的で組織的な違法活動を行ったと主張して提訴した(こちらは民事訴訟)。

禁止命令により買収計画を放棄する期限が2月2日とされるので、近日中に日鉄は禁止命令が訴訟中は発効しないように米裁判所に指し止めを請求する予定だという。少なくとも当面の時間稼ぎをするのに必要ではあるが、この請求が「門前払い」される可能性もある。

仮に指し止め請求が受け付けられて禁止命令の発効を先送りすることができたとしても、大統領相手の行政訴訟は分が悪く勝訴できる見込みは小さいし、この類の裁判が早期に決着する可能性は非常に低いと、米国の法律実務に詳しい人々の多くが指摘している。

日鉄がUSSと合意した買収に関する契約では、今年6月までに買収が完了しなければ日鉄がUSSに5億6,500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が生じる可能性があるとのことだ(なお、これは米規制当局の審査で買収が認められない場合の違約金なので、大統領令による買収不成立の場合の扱いは微妙だ)。

日鉄とすると、高額な違約金と弁護士費用を支払った上で敗訴する可能性が小さくない。そして日鉄が排除された後に、とり残されたUSSに対して(一度は買収提案を拒否された)クリフスが再度買収を持ち掛ける可能性が高く、他に生き残り方法がなくなったUSSは受諾するかも知れない(独禁法適用を逃れるために大規模な工場閉鎖も受け入れることになるが)。

そうなれば日鉄とすると、高額な違約金という「塩」を敵に送った格好で北米での展開を邪魔されてと、まさに踏んだり蹴ったりだ。

では日鉄には勝ち筋の可能性はまったくないのか。一つある。バイデン氏の大統領令を覆すことができる人物はただ一人、それは次の大統領・トランプ氏だ。もちろん簡単ではない。

そもそもこの問題は、共和党の大統領候補だったトランプ氏が「米国第一主義」を訴求する選挙戦術の一環として、日鉄の買収計画に反対を表明したことで始まった。当時まだ次期大統領選に出馬するつもりだったバイデン氏が、労組を味方につけるため対抗意識で買収計画に反対を表明したことで火が付き、政治問題化したものだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

世界的戦略ファームのノウハウ×事業会社での事業開発実務×身銭での投資・起業経験=実践的な創業の知見を誇ります。 ✅足掛け35年超にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクト=PJを主導 ✅最近ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)PJの一つを支援 ✅以前には日越政府協定に基づくベトナム・ホーチミン市での高速都市鉄道の計画策定PJを指揮  パスファインダーズ社は少数精鋭の経営コンサルティング会社です。事業開発・事業戦略策定にフォーカスとした戦略コンサルティングを、大企業・中堅企業向けにハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/                  弊社は中小企業向け経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。特に後継経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/       

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