政府の少子化対策は「異次元」でも本質的でもない

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2024.01.17

経営・マネジメント

政府の少子化対策は「異次元」でも本質的でもない

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

政府の少子化対策は抜本的解決を期待できる範囲・レベルのものではなく、しかもこの視野の狭さは確信犯的だ。真に求められているのは、特に女性たちが安心して早めに結婚と子育てに踏み切ることができる社会構造だ。

では本当に、真の少子化対策は「打つ手なし」なのだろうか。そんなことはないはずだ。少子化というのは、政治家・中央官僚たちがそこまでの危機感を持たずに安易に問題を先送りし続けた結果に過ぎないのではないか。

この問題解決のためにはまず、様々な政策研究集団や社会問題研究家たちが既に実施している分析に基づいて、「日本がなぜこれほどの少子化社会になってしまったのか?」という構造的要因から振り返ってみるべきだろう。

ずばり、若い世代、特に女性に対し経済的に不利な立場を押し付けてきた、高齢男性による同質的意思決定で固められたアンフェアな社会構造への、女性たちの無言だが怒りを秘めた抵抗が「未婚・晩婚化と晩産化による少子化」という形で出てきているように小生には思われる。

特に女性に対し補助的役割や非正規雇用という理不尽な役回りを押し付け、経済的に苦しい立場に追いやった結果、しかし高等教育を受けた現代女性は(昔の女性たちのような)すぐに「結婚に逃げる」方策はなかなか採らなかった。(上の世代から連綿と引き継がれてきた)男性側の「俺が養ってやるのだから妻は言うことを聞くべきだ」という鼻持ちならない優越意識がまだまだ消えていないことを敏感に感じていたためだ。

特に東京のような大都会で就職した女性たちはぎりぎりまで独身を謳歌した上で、またはキャリア上の機会を追求した上で、でもせめて一度は妊娠・出産したいので、「これ以上先延ばしできない」段階になってようやく結婚するという「精一杯の抵抗」を男性優位社会に対し行使してきたのだ。その結果、彼女たちの結婚年齢と出産年齢は軒並み上がり、一人の子どもを生んで育てるだけで「打ち止め」という状況を多く生じさせたのだ。

しかし彼女たち個々人の抵抗は総体としてはむしろ自分たちに跳ね返って、自らの首を絞める結果になりつつある。現役世代が高齢世代を支えるという年金や介護保険の構造のため、少子化が進むにつれて支える層が少なくなり、若い世代ほど一人当たりの負担は重くなる。

その一方で、彼女たちが本来抗議の意思をぶつけたかった対象である、今の社会構造を固定化させた元凶である高齢男性の元リーダーたちはとっくに引退しており、悠々自適の老齢期を過ごしているか、既に鬼籍に入っているため、少子化が幾ら進展しようと痛くも痒くもない。何とも皮肉な構図だ。

平成不況期を通じてしわ寄せは女性だけでなく結婚適齢期の男性全般にも及んだ。男性も女性も実質賃金が長いこと抑えられてきた結果、そもそも双方の収入を合わせても、子育てできる貯金もなかなか貯まらない、それだけの居住空間を確保することもできない。そんな経済的に見通しの立たない若いカップルが増えており、特に東京などの大都市に多い。そりゃあ子育てどころか結婚にも踏み切れないのも当然だ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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