政府の少子化対策は「異次元」でも本質的でもない

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2024.01.17

経営・マネジメント

政府の少子化対策は「異次元」でも本質的でもない

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

政府の少子化対策は抜本的解決を期待できる範囲・レベルのものではなく、しかもこの視野の狭さは確信犯的だ。真に求められているのは、特に女性たちが安心して早めに結婚と子育てに踏み切ることができる社会構造だ。

日本政府のいわゆる「少子化対策」の中身と規模感、そして裏付けとなる財源の見込みを見ると、残念ながら抜本的に解決する覚悟が見受けられるものではない。「異次元」というにはあまりに小出しで、あまりに偏っているのだ。

岸田政権が打ち出した少子化対策は、①経済的支援、②サービス充実、③育休強化の3本柱で成り立っている。①はあくまで子育てへの経済的負担を軽くしてあげようという支援なので、これらはすべて「既に子育てに入っている人たちの今の困り事を解決してあげよう」という発想からの施策でしかない。

これで可能なのは、既に子どもを一人育てていて「もう十分」と考えてしまいがちな夫婦に「(先々の経済的余裕に自信が持てるようになれば)二人目の子どもを産み育てるのも悪くないな」と思ってもらう可能性を高めるくらいのことだ。やらないよりはずっといいが、「これで少子化対策はバッチリ」みたいなドヤ顔をされることは止めて欲しい。

この3本柱には、「未婚・晩婚化」と「晩産化」への対策という最も本質的な少子化対策視点が欠けている。すなわち、(1)経済的な不安が大きいため、(結婚したくても)結婚に踏み切れない人たちに「思い切って結婚しちゃおう!」と踏ん切らせる、(2)(結婚はしたけど)「自分のキャリア等を考えると、子どもを産み育てることを躊躇し先送りしてしまう」若い奥さんに安心して子どもを産む気になってもらう、という視点だ。

ではこの「視点の偏り」は、政府関係者および与党幹部がうっかり見落としていたためだろうか。そんなはずはない。政権の中枢にある政治家には中央官僚や学者をはじめとした様々なブレーン、つまり頭脳集団がついている。彼らが見逃すはずがない。つまり岸田政権の少子化対策が「既存子育て集団にだけ焦点を当てている」構図は、かなり確信犯的なのだ。

多分、長年にわたって何やかやと少子化対策をやってきたつもりの(しかもカネで解決することしか発想できない)中央官僚と与党政治家諸氏からすれば、上記の(1)と(2)の課題は(必要性は分かっていても)あまりに根が深くて、「打つ手なし」という認識なのだろう。

さすがに政治的には白旗を挙げることはできないので、既存子育て層にだけ焦点を当てて「やっている感」を出せばいい、と考えたのではないか。つまり「(本当は違うけど名称だけは)異次元の少子化対策」というのは一種のアリバイ工作なのだと解釈できる。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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