日銀の低金利こそ失われた30年の元凶

2022.09.21

ライフ・ソーシャル

日銀の低金利こそ失われた30年の元凶

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/金利がゼロ、というのは、たんに経済の問題ではない。無駄遣いをせず、まじめにコツコツと働いて貯金し、夫婦で、家族で力を合わせ、いつかもっと大きな夢をかなえる、という未来の希望、日本人らしい堅実な生き方の美徳、モラリティそのものを、日銀は、この30年にも渡って徹底的に破壊し尽くした。/

日銀は、バブル崩壊後の低調な国内経済の回復のために、1995年来、もはや四半世紀以上に渡って異常な低金利政策を続けている。が、まったく結果が出ていない。それどころが、それこそが「失われた30年」の元凶であり、氷河期世代の、そして、いまの若者の人生の破壊者なのではないか。

たしかに教科書では、低金利にすれば、貯蓄よりも消費にカネを回したくなって、景気が刺激される、ということになっている。だが、それは、所与の条件が一定である場合、というまったくの仮設の上の話だ。

経済指標として重視されるものに、新設住宅着工戸数がある。家を建てれば、車や家具、家財の購入へ幾何的に波及するからだ。しかし、逆転すれば、その逆数で経済は縮小する。しかるに、バブル崩壊直前まで、167万戸であったものが、その後、だだ下がりとなり、この30年を経て、いまやその半分の87万戸。これでは、今後も景気が良くなるわけがない。それどころか、今後、もっと、止めどなく悪化する。

それで、おそろしいほどの低金利にして、だれでも住宅ローンが組みやすいように、と日銀は国民を慮ってやっているつもりらしいが、いかにも、スーパーで買い物をしたこともないじじいばばあの考えそうな浅知恵だ。家が建たない、家を建てようとしないのは、カネが無い、という以上の日本の社会問題、ファンダメンタルの崩壊が背景にあるからだ。日銀の連中は、世の中の現場に出て、自分の目で見てみるがいい。

まず第一に、いったいだれが工事をするのか? 建設に係わっているのは、もはや高齢者ばかりだ。ちょっとした工事を頼んでも、半年先、一年先は当たり前。戦後の高度経済成長期のように、相続から外れた農家の二男坊、三男坊が田舎から大量に出てくるわけでなし、稲作から商業作物のポートフォリオになって、農閑期の出稼ぎも無くなった。外国人労働者も、コロナでばったり。そうでなくても、あまりの停賃金、高生活費で、あまり日本には来たがらない。おまけに、建設業関連企業の経営者からして高齢化が著しく、労働者も集まらないために、ばたばたと廃業していっている。

それなら、工賃を上げればいい、などというのも、現状を知らない発想だろう。家を買う側は、若手。ところが、年金だ、介護保険だ、消費税だ、と、賃上げも無しに、ひたすらむしりとられ、そのうえ、将来の雇用にも不安しか無い、となるといくら長期ローンにしたところで、格安の物件にしか手が出ない。それに応えるべく、徹底的に合理化した企画住宅を新興住宅メーカーが手がけているが、これまた、その安普請の工事を請け負う業者が確保できない。それどころか、ウクライナ問題のウッドショックに、コロナのロックダウンでサプライチェーンが途切れ、木材や部材さえも手に入らない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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