/たいして親しくもないのに、人の相談になんか乗るから、こうなる。上司がなんと言おうと、いやぁ、私なんかでは、行ったって役には立ちませんよ、もっと偉い人じゃないと、と謙虚にひたすら辞退すればよかった。行って話を聞いてしまったら、結末はかならずこうなる。/
ある日、同じ部署に配属されたばかりの同期が、仕事中に突然、帰ってしまって、以来、出社拒否して自宅に引き籠もり。上司が電話しても、ワン切りされる。部署の仲間たちは、最初は、おまえがなんかやったんじゃないの、とか、冗談めかして笑っていたが、数日ともなると、会社の中もピリピリしてくる。
それで、上司は、きみ、同期なんだから、ちょっと事情を聞いてきてよ、なんて、言いだして、きみはいやいやながら、そいつの自宅を訪問。で、話を聞いたら、私は深いトラウマがある、だのなんだの、自分の人生の長年の愚痴のオンパレード。いやいや、今後は、みんなで気を配るから、とかなんとか言って、なだめすかして、出社を促した。
ところが、そいつ、会社に来るなり、上司に、あいつが家まで押しかけて来た、ひどい、などと、わめき出した。それで、ただちに会社の人権委員会が招集され、きみに行って聞いてこいと言った上司は、頬被り。顧問弁護士の判断だとか言って、いきなり、厳重注意、だと。おまけに、それだけでは済まず、そいつは、友人まで総動員して、あの人、パワハラ! とかSNSで言いふらす。
ようするに、世間によく言う、かまってちゃん、だ。標的として照準を合わせられたら、もう逃げられない。そういう事情を無視して、会社は杓子定規に倫理規定とかを持ち出して、そいつの側の人権だけを全面擁護。きみの人権なんか、知ったことじゃない。結局、なにもかも、きみがぜんぶ悪いことになって、きみだけが会社を追い出される。
しかし、じつのところ、きみを追い出したところで、なにも解決しない。会社は、とりあえずそいつの配属先を変えるが、そいつはそこでも次に絡む口実をなにか探して、また同じことの繰り返し。とはいえ、だからといって、そいつをクビにすることもできない。そんなことをすれば、いよいよ外部の妙な団体まで巻き込んで、何をし出すか、わかったもんじゃない。だから、人事も、上司も、そいつをあちこちへ異動させて、ただ地雷をやり過ごすババ抜きでヒヤヒヤ。
たいして親しくもないのに、人の相談になんか乗るから、こうなる。上司がなんと言おうと、いやぁ、私なんかでは、行ったって役には立ちませんよ、もっと偉い人じゃないと、と謙虚にひたすら辞退すればよかった。行って話を聞いてしまったら、結末はかならずこうなる。自分なら話を取り持てる、解決できる、なんて、思い上がらないほうがいい。おそらく、そいつは、学生のころから、そのパターンのゴリ押しでうまく世を渡ってきて、ここまで残ってきたのだろうから、シロウトのきみが、ちょっとやそっとでかなう相手じゃない。
会社の方も、こういう話に、人権委員会だの弁護士だの持ち出しても、なんにも解決にならない。とくに弁護士なんか、後始末の責任を最後まで負う気もないのだから、全面対立の揉めごとを世論まで巻き込んで拡大するだけで、百害あって一利無し。まして、社内のオフィシャルな人権委員会で判断なんかしたら、つぎはまさに会社本体が世間の標的になり、経営者たちが総退陣しなければならなくなるほど、引っかき回される。
だから、これまた責任逃れにすぎないのだろうが、会社が完全外部のメンタルな専門家に委ねて、いま調査依頼中、ということで時間稼ぎ。そして、どうなろうと、会社の判断ではない、専門家の助言を受けて、やむをえずこうした、ということで押し切り、そいつや世間の標的にならないようにするくらいしか対処の方法がないかもしれない。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。
百日一考
2024.04.07
2024.10.16
2025.01.03
2025.01.14
2025.01.18
2025.02.16
2025.02.27
2026.01.02
2026.07.03
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
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