一時的大盤振舞いの財源には資産課税強化と国の資産売却を充てよ

画像: Mike Licht

2021.10.28

経営・マネジメント

一時的大盤振舞いの財源には資産課税強化と国の資産売却を充てよ

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

総選挙に際しての「大盤振舞い」オンパレードの与野党の公約には、財源を真剣に考えた様子がまったくない。将来世代への責任を考えたら国債依存のこれ以上の膨張は許されず、所得税・消費税の増税も現実的ではない。現実性かつ社会の公正さから言っても、不動産を中心とする資産課税の強化と、国の資産売却が最有力ではないか。

岸田首相は総裁選を戦う一時期、金融所得課税を増税することを財源オプションの一つとして掲げたが、金融界を含む経済界全般からの反発で「将来のテーマの一つだ」と引っ込めざるを得なくなった経緯がある。その顛末自体が腰砕け的で少々情けない気もするが、そもそも「金融取引をするのは金持ちだからもっと税金をふんだくればいい」といった庶民の妬み心理に依って動いては、国家百年の大計を誤りかねない。

ほかの取引や所得と違って、金融取引は純粋なマイナス収益と常に隣り合わせであり、リスクが大きい。そのリスクを負いながら得た収益に対し、他の取引と同様な感覚で税を課すことをするのは、経済社会的にみてもアンフェアであるし、国際的には非常識である。実務的にいえば国際的な競争視点からも愚策である。なぜなら日本がそうした増税をすると、外国人投資家は日本市場を避け、日本の投資家は海外市場に逃げ、総取引量が減ってしまうので、税収は却って減ってしまう。そして日本の金融市場は細ってしまうので、経済活動の縮小または動脈硬化を起こしかねない。

話を戻そう。野党の大半もまたこの総選挙にあたり、与党と同様に財源を無視するか、あるいは非現実的な策を提示している。「消費税の時限的な減税」や「消費税撤廃」といった具合に、ますます高齢者が増える日本の社会保障活動の基礎をなす税を減らしてまで有権者の目先のご機嫌を取ろうとしている。その結果、将来世代に大きなしわ寄せが行くことなど我関せずとでも言いたいのだろうか。

共産党にいたっては相変わらず「大企業への優遇措置を止める」という公約を掲げるが、まったく現実的ではない。そもそも日本の税制で優遇されているのは中小企業である(だからこそ窮地に陥ったJTBなどが面子をかなぐり捨てて、減資して中小企業扱いされようとしている)。そして大企業と富裕層は絶対数が圧倒的に少なく、彼らからの所得税を倍額しても財源としてはまったく足らない。それにそもそもへたに大企業や富裕層に対する実効性のある増税措置を矢継ぎ早に打った日には、彼らは今以上に真剣に租税回避に躍起になってしまい、キャピタルフライトが加速することは火を見るより明らかだ。それこそ税収増どころか減収になる可能性がかなり高い。

こうした現実性・実効性のない公約を見る限り、矢野財務事務次官が嘆く通り、与野党とも無責任極まりないとしか言いようがないのだ。

では他にどんな策が「一時的大盤振舞い」を支える財源となり得るのか。その必須条件としては、1)本質的に、社会的非公正さを抑制し、大半の国民がフェアだと納得できる、2)中長期的に見た時、将来の財政健全化を妨げず、むしろ国家財政に対する信頼をつなぎ留め得る、3)短期的に見た時、景気に対しネガティブでなく、中立的かむしろポジティブな作用方向に働く、という3点ではないか。そうすると有効な策が2つほど考えられる。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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