川崎の中学生殺害事件で責められるべきは誰なのか

画像: J-Castニュース

2015.05.12

ライフ・ソーシャル

川崎の中学生殺害事件で責められるべきは誰なのか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

痛ましい事件から汲み取るべき本質は少年犯罪の凶悪化ではない。子供たちを守るための仕組みを崩壊させ放置してきた私たち大人と政府の責任である。

川崎市の中学生殺害事件で未成年が逮捕されたことを受けて、自民党の稲田朋美政調会長が「少年事件が非常に凶悪化しており、犯罪を予防する観点から、少年法が今の在り方でいいのか課題になる」と述べたとの報道が少し前にありました。少年法対象年齢の引き下げや加害少年の実名報道などを念頭に置いた発言だったようです。

この論点提示は2つの側面で議論を呼びました。

一つは、「少年事件が非常に凶悪化している」という事実はないという指摘と批判でした。もっともな指摘で、客観的事実はむしろ反対です。日本全体で犯罪は長期傾向として減少しており、なかでも少年犯罪は(少年の数が減少していることもあり)全体的に減少、凶悪犯罪の割合も長い間低いままです。

(参考)http://kogoroy.tripod.com/hanzai.html

http://kangaeru.s59.xrea.com/

むしろ絶対数の増加に加えて元気な老人が増えた社会傾向を反映して、高齢者犯罪の急増・悪質化のほうが目立つというのが事実です。でも不思議なことに、「高齢者犯罪に対する対策」を主張する政治家はいません。

もう一つは、結論としての「少年犯罪の厳罰化」に対する賛否両論です。昨今のニッポンの世論を反映してか、少年法はこの10数年の間に何度か「厳罰化」の方向で改定されています。2000年には刑事罰対象を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げ、2007年には少年院送致の年齢下限を撤廃しました。昨2014年には有期刑の上限を20年にまで引き上げ、不定期刑の限度を長期は10年から15年へ、短期は5年から10年にそれぞれ引き上げました。

「厳罰化」反対論者はこうした厳罰化をしても少年犯罪は減らないと言い、賛成論者はお蔭で減っていると言い、水掛け論のままです(元々少年の凶悪犯罪数は少ないため、2000年以降の数字が減少しているのか、維持されているのか、主観次第で何とでも読めてしまうのでしょう)。

稲田政調会長が掲げた論点に対し、筋が悪いという指摘はごもっともなのですが、そんなことにこの論客が気づかないはずはありません。むしろ、わざと論点ずらしをしているのではないかと小生は疑っています。

大体、大物政治家が特定のグループ(この場合、罪を犯す可能性の高い不良少年・少女たち)をやり玉に挙げて糾弾するとき、そこには往々にして「目くらましのためのスケープゴート」という要素がかなりあります(我々は商売柄、そうした「政治的意図」を読むことが時折あります)。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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