混合診療を巡る“分かりにくい”議論とその背景

画像: Anders Lejczak

2014.07.18

経営・マネジメント

混合診療を巡る“分かりにくい”議論とその背景

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

安倍政権の掲げる規制緩和策とそれに対する議論の中には非常に理解しにくいものがある。それは元々の規制そのものの狙いや意義が曖昧である場合に生じがちであり、それに対する規制緩和も様々な思惑が絡んでいることで、さらに複雑怪奇な様相を呈してくる。この典型が、混合診療の対象拡大に関する議論だ。

そして実際に混合診療が解禁されたらどうなるだろうか。まず直近では、今まで公的健康保険適用となる診療だけで我慢していた人たちの何割かは、民間保険を使って混合診療を受けるようになるだろう。たとえば検査は公的保険を適用し、その後の診療は民間保険でカバーされる高度医療を受ける、という具合だ。すると公的健康保険適用部分は相当程度減ることになる。

これが健康保険組合と政府にとって、混合診療を導入したい最も強力な理由だ。混合診療解禁派の人たちも、「混合診療を解禁すれば、保険診療を縮小できて、公的保険財政が健全化する」と明言している。でもそれは、公的健康保険に依存し高度医療と関係のない開業医からすると、自分たちの取り分が減ることにつながるわけだ。だから医師会は混合診療の解禁に反対しているのだ(どうですか、腹落ちしましたか)。

こう考えると、先ほどの日本医師会のHPに記載されていた(2)は次のように書き換えたほうがロジックはずっと分かり易くなる。

すなわち「(2)混合医療が導入された場合、多くの患者さんが民間保険を活用して(健康保険外で)高度な診療を受けるようになり、健康保険適用の診療の割合が縮小することは明白です。それでは開業医としては困りますし、民間保険に加入する余裕のない人と余裕のある人との間に不公平が生じます」と。

ではさらに混合診療が浸透すると、どういう事態が想定されるだろう(ここからは仮説のシナリオ)。

人々が少しずつ「基本的な医療は公的な健康保険で、高度な医療は民間保険で」という感覚に慣れていくかも知れない。すると今まで「国民皆保険こそがニッポンの誇るべき制度だ」と主張していた政治家や厚生官僚も、「じゃあ財政的に無理して何でもかんでも保険適用をしなくてもいいよね」と緊張感を無くしていくかも知れない。国内や海外で開発された新しい治療法が、混合診療の浸透によって、承認はされるが健康保険適用はされないままというケースが増えるかも知れない。

これがまさに、先の(1)の延長上に起きる可能性が十分あることであり、(医師会や一部開業医の思惑とは別に)良心的な医師たちが危惧していることなのだ。

つまり、新しい高度治療法と薬が公的保険対象にならないままというケースが増えることは、民間保険に入れる世帯と入る余裕のない世帯との間で医療格差がさらに広がることだ。決して他人事ではない。ここに対する歯止め(つまり新しい高度治療法と薬でも必要なものは速やかに公的保険適用対象とする努力を続けること)こそが、混合診療導入の是非に際して議論すべき論点のはずだ。

こうした「こうなると、次にこうなるよね」といった推測を交えた影響の議論は確かに難しいものだが、ビジネスの世界ではごく普通の議論だ。その際のロジックをすっ飛ばして自分の言いたい結論だけいう人は(絶対権力者でない限り)、噛み砕いての説明を改めて求められる。

国民の医療保険制度という重要な議論なのだから、論点と論理を明確にして、丁寧な議論をしていただきたいものだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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