混合診療を巡る“分かりにくい”議論とその背景

画像: Anders Lejczak

2014.07.18

経営・マネジメント

混合診療を巡る“分かりにくい”議論とその背景

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

安倍政権の掲げる規制緩和策とそれに対する議論の中には非常に理解しにくいものがある。それは元々の規制そのものの狙いや意義が曖昧である場合に生じがちであり、それに対する規制緩和も様々な思惑が絡んでいることで、さらに複雑怪奇な様相を呈してくる。この典型が、混合診療の対象拡大に関する議論だ。

まず日本の医療における“混合診療”とは何なのかを簡単に説明したい。ご存じの通り、日本は「国民皆保険」の制度がある国であり、健康保険対象の治療なら自己負担は1〜3割程度だ(世代によって変わります)。しかも高額療養費制度のおかげで、半年入院しても自己負担は50万円程度で済む。

その上で、治療には公的医療保険が適用される「保険診療」と、保険が適用されない「保険外診療」の2種類がある(歯の治療で銀歯をかぶせるなら保険でやってくれますが、金歯なら保険外となる、あの違いですね)。この公的医療保険を使った診療と保険外診療を併用することを混合診療と呼ぶ。

現状、日本では混合診療は原則的に認められていない。もし既に保険診療を受けていても、その治療の過程で保険適用が認められていない治療や投薬を一部でも受けると、本来は保険診療で済むはずだった治療(検査~入院~手術~投薬)の費用までがすべて保険の適用から外れ、全額が自己負担となるという仕組みになっている。

(実は小泉政権時代から水面下で検討が続いてきたのだが)政府は先般、混合診療の対象を拡大する法案を提出した。法案が通過すれば、2016年から「患者申出療養(仮称)」という新たな制度がスタートする。

この法案の中身自体の問題も色々あるようだが、その前にそもそもなぜ“混合診療”が禁止されていたのか、そして今回の規制緩和に対し医師会などが反対していたのだろうか。

報道では「混合診療を認めてしまうと金持ちしか良い医療が受けられなくなる」「国民皆保険制度が崩壊してしまう」「健康保険の質が下がるのではないか」といった懸念が典型的に挙げられていたが、その理屈をきちんと理解できていた方はどれほどいたのだろうか。幾つかの新聞記事や雑誌記事、ウェブサイトにおける識者のコメント・解説を読んでもなかなか理解できないという声が少なくない。

“混合診療”反対派の人たちのほうがプロパガンダに熱心で、色々と記事コメントやブログが書かれているのだが、その大半が結論ありきで、論理破たんしているか、あるいは(うっかりなのか、わざとなのかは分からないが)論理の飛躍があるからだ。

例えば、日本医師会のホームページ(HP)には次のように記されている。

<<一見、便利にみえますが、混合診療には、いくつかの重大な問題が隠されています。例えば、次のようなことです。

(1)政府は、財政難を理由に、保険の給付範囲を見直そうとしています。混合診療を認めることによって、現在健康保険でみている療養までも、「保険外」とする可能性があります。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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