社会インフラを考える (6) 東京五輪を、弱者に優しい都市に変えるきっかけに

画像: Warrnambool City Council

2014.04.21

経営・マネジメント

社会インフラを考える (6) 東京五輪を、弱者に優しい都市に変えるきっかけに

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

2020年の東京五輪を旧来型の公共事業用イベントに終わらせては、後の世代に大きな負の遺産となるだけ。やるべきことはバリアフリー社会の構築であり、そのために必要なのはソフト面を中心にしたインフラ整備だ。

東京五輪の施設整備は4500億円を超える額に上るといわれている。自民党が「国土強靭化」という看板を掲げて公共事業の復活を宣言したところに、ちょうどタイミングよくオリンピック誘致が決定したものだから、10年間で200兆円ともいわれる国土強靭化計画の核になる一大イベントとして、今後は扱われていくのではないかと思われる。

前回1964年の東京オリンピックによる需要の大きさを体感的に覚えている(または度々聞かされて育った)向きは、今回もそのカンフル効果を大いに期待しているようだ。でも同じ成熟都市・ロンドン五輪ではどうだったかを見てみよう。約1.4兆円にも上った運営費を支払いながら、その後英国のGDPはマイナス成長に陥っている。冬季五輪後の長野県/市の大幅な財政悪化も忘れてはならない。

ことほど左様に、先進国でのオリンピック効果というものは、単なるカンフル効果だけを見たら、公共支出額に見合わないものだ(ただし別観点では大いに意味があり、それは後述する)。

最近の五輪開催国である中国、これからやろうとしているブラジルやトルコなどの新興国では、人口も増えている途上だから、巨大なハコモノを建てて高速道路等の整備にいそしむのは合理的だ。いずれにせよ必要となる都市インフラを整備するためのきっかけに過ぎず、そのあとで十分な活用を見込める。前回1964年の東京がまさにそんなタイミングだった。

しかしすでに成熟した都市となった東京、しかも日本国全体として少子高齢化が進む中で、新興国と同じようにすることは馬鹿げている。近所の若い夫婦が何組も家を新築したからといって、老夫婦が今さら大きな借金をして全面的に家を建て替えるようなものだ。

主な懸念点は2つ。旧来の土建屋的発想が強い人たちが中心になって整備していく結果、あまりにハード志向すなわち「ハコモノ」に偏った整備事業になり過ぎて、ソフト面がなおざりにされないかということが一つ。そして社会が大いに高齢化してしかも人口縮小が始まっているにもかかわらず、将来の身の丈に合わない無駄なサイズのハコモノが続々と作られやしないか、ということがもう一つ。

長野県/市が直面した、後々生じる巨額メンテナンスコストを考えると、決して迷いこんではいけない誘惑のとば口に、我々は立っているのだ。

ではどうすればいいのか。先の老夫婦の例え話で云えば、「建て替え」ではなく、ライフステージに合わせて「リフォーム」するのだ。「土建屋」的発想、「新興国」的発想をそぎ落とし、我が日本社会が置かれている状況を考えれば、答は自ずと明らかだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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