AIが協働パートナーとなる時代、人間に残される思考は「コンセプチュアル(概念的)思考」になる。それはつまり──雑多な出来事・情報から本質を抜き出し、概念を形成する。客観的認識にとどまらず、主観的意志(信念・理念)を行動に変える。そのコンセプチュアル思考における5つの基本スキルについて解説する。今回はその最終回。

断片の知識から概念へ、そして理念・信念へ
私たちはさらに春を感覚的、心象的にもとらえています。春は「萌え出ずる」「待ちわびる」季節であり、「輝く・きらきらした」感じがある。「はなやか」であると同時に「はかない」イメージもある。そのようにゆたかに観念を広げて春をとらえているからこそ、
「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ──紀友則」
といった歌が時代を超えて味わえるのでしょう。
そしてさらに、私たちの春についてのとらえ方はここまでにとどまりません。春という季節のありようを理想として、自分の生き方に取り込みたいという意志が生まれてくるのです。
すなわち、「春のごとく清らかでありたい」「春のごとく若々しく生きたい」のように。春を理念に昇華することで「春のごとく」という方向性・軸が生まれ、「~したい」という熱が生まれるわけです。
さらには、理念を煎じ詰めると信念に行き着きます。宮沢賢治が残した詩集『春と修羅』のなかに「春」という短い詩があります───
陽が照って鳥が啼(な)き
あちこちの楢(なら)の林も
けむるとき
ぎちぎちと鳴る汚い掌(て)を
おれはこれからもつことになる
長く凍える北国の冬。その冬を生命の息吹あふれる季節に転じる莫大な春のエネルギー。大自然が宿すその計り知れない作用を賢治は畏れ、敬い、信じます。そして「ぎちぎちと鳴る汚い掌」を持つことを覚悟し、土とともに生きていく決意をします。賢治にとってもはや春がもつ再生の力というのは、魂の底に据える信念であり、己(おのれ)の生きざまの象徴であったといえるでしょう。
このように、人間が物事をとらえるありようは、断片の知識から概念や観念、さらには理念・信念といったものまであり、質の異なる認識が複雑に連続化しています。これらを一貫してつなげ、その考える過程で方向性(軸や観)と熱量を生じさせる作用をもつのが、まさに概念的に考える力なのです。
この概念的に考える力こそ、人間に残された思考の1つであり、この思考のもとに生成AIなどのツールを手段として用いることが、これからの時代の思考の本筋といえるのではないでしょうか。
「プロフェッショナル」の原義が問うこと
さて最後に、「知・情・意」のフレームで考える力を深く見つめてみたいと思います。
私たちの思考は知・情・意という精神のはたらきの影響を受けています。夏目漱石は『草枕』の冒頭で次のように書きました。
「智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。」
漱石がいみじくも指摘したとおり、知・情・意の3つがバランスを欠き、何かが突出するだけになるとよからぬ問題が起こってきます。
例えば、地球の環境問題。知は科学技術を先鋭化させ、その技術によって経済的合理性を際限なく追求することを目指します。情や意の抑制がなく、知に偏ったまま突っ走ると、地球の汚染や破壊がどんどん進みます。
情だけで生きることは、ただ感覚的な反応だけで生きることを意味します。好きか嫌いか、面白いかつまらないかというその場の気分によって、人生や社会が流れていきます。知や意を欠くことによって誤情報・偽情報に扇動されやすくなり、個人と社会は安定性をなくし、脆弱になります。
また、意だけが突出するのも問題ありです。国家のリーダーや組織のリーダーが独善的に自分の思想・信条を押しつけ、強引に施策を押し進めていく。そして多様な意見を抑圧する状態。これは早晩破綻をきたします。どんな思想・信条も知や情の下支えがなければ、広く長く受け入れられることはありません。
AI時代 人間に残される思考は「概念的思考」になる
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2026.09.01
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
キャリア・ポートレート コンサルティング代表。組織・人事コンサルタント、概念工作家、『源流の森ブックス』編集発行人。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
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