2026.09.08
日本の価値を世界的に高めているアニメの土台にあるもの ――その土台は、現代の日本人にあるのか
齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
日本の価値を、いま世界でもっとも強く押し上げているものは何だろうか。 自動車だろうか。精密機械だろうか。寿司やラーメンだろうか。京都や富士山だろうか。 もちろん、どれも日本を代表する大切な価値である。 しかし、若い世代を中心に世界の人々の日本観を大きく変えているものの一つが、アニメであることはもはや疑いようがない。 日本動画協会によれば、2024年のアニメ産業市場は過去最高の3兆8,407億円に達した。そのうち国内市場は1兆6,705億円、海外市場は2兆1,702億円。つまり、すでに海外市場のほうが国内市場より大きい。しかも海外市場は前年比126%という高い伸びを記録した。
誇りとは、自分を高く評価することではない
ここで「誇り」という言葉をもう一度考えてみたい。
誇りとは、自分が優れていると思うことではない。
まして、他人より上に立つことでもない。
誇りとは、
自分が何者として生きるかについて、自分自身に課している基準である。
誰も見ていなくても手を抜かない。
損をしても卑怯なことをしない。
自分が間違っていたら頭を下げる。
弱い人間を利用しない。
受けた恩を忘れない。
仲間を簡単に見捨てない。
自分の能力を、自分だけのために使わない。
つまり誇りとは、
自分の人生を安く売らないことである。
日本アニメの主人公たちが格好いいのは、能力が高いからだけではない。
彼らには、「これを失ったら自分ではなくなる」というものがある。
だから私たちは、その姿に心を動かされるのである。
ところが、現実の日本社会はどうだろう
ここで、少し厳しい問いが生まれる。
世界の若者たちが日本のアニメを通じて、仲間、責任、努力、優しさ、使命、誇りを学んでいる。
では、その物語を生み出している日本社会そのものでは、それらはどれほど大切にされているのだろうか。
現在の日本社会で頻繁に聞く言葉を並べてみる。
市場価値。
タイパ。
コスパ。
成果。
キャリア。
リスキリング。
人的資本。
生産性。
もちろん、どれも必要な概念である。
問題は、それらの先にあるはずの問いが弱くなっていることである。
その能力を何のために使うのか。
どんな人間になりたいのか。
誰のために働くのか。
何を次の世代に残すのか。
これらは数値化しにくい。
だから、経営の議題にも人事評価にも、教育にも乗りにくい。
実際、パーソル総合研究所が紹介する『人事白書2025』では、管理職の「育成力」を測定している企業は4割弱で、人事評価制度に組み込んでいる企業は2割未満だったという。
また、同研究所の継続調査では、20~30代を中心に「仕事を通じた成長」を重視する割合が低下し、2019年から2025年にかけて、上司側でも「責任のある仕事を任せる」「能力が身につく仕事を任せる」「十分なフォローをする」といった育成行動が減少している。
Gallupの2026年版調査では、日本で仕事にエンゲージしている従業員は2025年時点でわずか8%である。
これらの数字だけから「日本人が誇りを失った」と結論づけることはできない。
しかし少なくとも、仕事を通じて自分より大きなものに関わり、人を育て、自分自身も成長し、そこに誇りを感じるという回路が弱くなっている可能性は考える必要がある。
CHANGE
2026.07.21
2026.07.28
2026.08.25
2026.09.01
2026.08.26
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。
フォローして齋藤 秀樹の新着記事を受け取る