沖縄振興策の最有力はITサービス業だ

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2022.06.15

経営・マネジメント

沖縄振興策の最有力はITサービス業だ

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

復帰後50年にわたって膨大な金額の振興策を進めながら、いまだ沖縄の県民所得は圧倒的に低い。それは日本政府と沖縄県の産業振興政策があまりに現実性も戦略性もなかったためだ。しかし今一度冷静に現実を見たとき、今のニッポンが必要としている要素を沖縄が持っていることに気づくはずだ。

この5月で返還50周年となった沖縄。しかし1人当たりの県民所得はほぼ常に全国最低ランクにある。全国平均に対しようやく70%を超えるまでには近年改善してきたとはいえ(資料『おきなわのすがた』のP.5参照)、この落差は著しいと言わざるを得ない。

その根本原因は2つあるとよく指摘される。1つめは米軍基地が要所を占めることにより、物流をはじめとする交通の効率が悪く(したがって社会の生産性が低く)、かつ広大な敷地を確保できないこと。2つめは観光以外に主要産業が少なく、とりわけ従来日本人が得意で付加価値の高い傾向のある製造業が育たなかったこと。

前者は後者の原因にもなっている。つまり十分に広い敷地を確保できないためと物流の効率が悪いために、県内に製造業のクラスターを形成するのが難しかったのだ。そもそも本土と物理的な距離があるため、製造した製品を本土の市場に運ぶための輸送費がかさむのと、(米軍用以外に)大きな港がないため部品の輸入と製品の輸出の両方にとって不利なことが明白なので、わざわざ沖縄に製造業の大規模クラスターを持って来ようと考える企業家がいなかったのだ。

実は隠れた根本原因がもう一つある。それは中央政府と地元自治体・沖縄県による産業振興政策の現実性と戦略性のなさだ。内閣府によると、復帰から22年度までの沖縄振興予算は、合計13.8兆円に上るという。本土との格差是正を目指しこれだけのお金を投じながら大した結果を生んでいないことに、県民と国民はもっと怒っていい。

中央政府の主要な振興策は何かと問うと、公共事業の高率補助、酒税の優遇措置、沖縄開発庁(現・内閣府沖縄部局)による沖縄振興予算の一括計上などだ。2012年度からは、振興に関する事業を県の裁量で決められる一括交付金も創設されている。

しかしお金の掛け方が悪い。全般的に道路整備が進んだとはいえ、まともな鉄道が整備されてこなかったため、かえって沖縄本島では都市部での交通渋滞を招いている。それが頼みの綱の観光業の足を引っ張るほどにひどい状態になっている(観光客が周遊できないため滞在期間が短くなりがちで、渋滞のひどさに呆れてリピート率も上がらない)。当然、他の産業の発展も阻害している。

「インフラ整備の最重要点はスループット上のボトルネックの解消」という原則を知らない人たちが地域開発計画を担ってきたとしか考えられない。

こうした「へたくそな振興策」の根本原因として、国と沖縄県がまともに向き合ってこなかった返還後の歴史があると指摘する声は多い。県は「基地に取られた土地を返せ。さもなくば援助しろ」の一本やり。片や国は「大人なしく言うことを聞けば援助してやる」という上から目線。残念ながら、膝突き合わせて沖縄の将来を語ろうとする関係ではなかったのだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。新規事業の開発・推進、そして既存事業の収益改善を主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/               弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashinban/            最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/

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