すぐ隣のイスラム:その信仰と生活

画像: photo AC: TECHD さん

2017.07.20

ライフ・ソーシャル

すぐ隣のイスラム:その信仰と生活

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/イスラムはユダヤ教、キリスト教から発展してできたが、「原罪」の概念は無い。この世こそが楽園、人間はそれを楽しむためにいる、とされる。ただ、恩恵に帰依することを示すため、一日五回、清浄な礼拝が求められる。しかし、早寝早起、清潔健康で働けば、実際、だれもが仕事も人生も成功する。/

 しかし、実際、あの暑い地域で、朝の三時前から起きて働けば、そりゃ仕事も人生もかならず成功する。なにしろ早寝早起、清潔第一で健康確実、きちんと礼拝に行けば、顔も広まり、話も入り、商売繁盛。おまけに、賭事も、酒もやらない。とはいえ、清貧なんていうしみったれたことはしない。ぱぁーっと使って人生を楽しむ。なにしろ、この世は神の贈り物、楽園なのだ。当初は税金も無しで、稼いだ一割を気前よく、世のため、人のために投げ出す。でも、これは見栄ではない。これは、自分が神さまに愛されている証拠。うらやましいなら、きみもちゃんと帰依したら、というところ。


ウンマ(共同体)主義

 礼拝は集まってやった方がいい、とはされるが、もともと『コーラン』さえあれば、一人でどこでも信仰できる。神父に事ごとにお伺いを立てる必要も無いし、そもそも神父なんていない。それで、あっという間に広まって、アフリカ西岸から、東はインドネシアまで、北はカザフスタンまで。実際、この世は呪われている、我々は罪人だ、悔い改めろ、なんていう陰鬱なキリスト教より、この世は楽園、感謝して楽しめ、帰依すれば成功するぞ、というのだから、はるかにハッピー。初対面でも、みんなアラビア語を話し、イスラム法で取引をできる。社会を表面的に見て、女性に対して差別的だ、という人もいるが、男の甲斐性の方がじつは義務が重い。ずばぬけた女性科学者なども早くから輩出している。

 けれど、『コーラン』に書いてない新しい物事に対してはどうするのか。この問題は、モハメッドの後、すぐに表面化する。一部の人々(「シーア派」=イラン)は、モハメッドの直系親族のみを指導者とし、保守ゴリゴリになったが、他の地方は、「スンニ(慣例)派」としてイスラム共同体「ウンマ」の合意を重視した。みんなが合意するなら、そこには神の御意志が宿っている、とされる。ああだ、こうだ、と議論するが、その結果、穏当なところに落ち着く。

 では、なぜこれほど強大だったイスラムの黄金時代が終わって、列強の植民地として喰い荒らされたのか。十字軍のときもそうだったが、どうするのか、対応の合意が形成されるのに、やたら時間がかかるのだ。教皇の命令一つで全軍が一斉に攻めかかるキリスト教国に初動では勝てない。しかし、もともと首都も首長も無く、国際的な動員力もあり、長期的にはかならず復興してくる。その後の帝国主義の植民地化においては国境で共同体を分断され、その後を西欧式の独裁国家が引き継いだが、それもどこも壊れ、遠からず、一つの流動的な巨大文化圏に戻っていくだろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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