すぐ隣のイスラム:その信仰と生活

画像: photo AC: TECHD さん

2017.07.20

ライフ・ソーシャル

すぐ隣のイスラム:その信仰と生活

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/イスラムはユダヤ教、キリスト教から発展してできたが、「原罪」の概念は無い。この世こそが楽園、人間はそれを楽しむためにいる、とされる。ただ、恩恵に帰依することを示すため、一日五回、清浄な礼拝が求められる。しかし、早寝早起、清潔健康で働けば、実際、だれもが仕事も人生も成功する。/


運べる教会

 イスラム教発展の最大の鍵は、『コーラン』。これが印刷され、また、それを読むためにアラビア語が共通語とされた。『コーラン』は、いわば「運べる教会」であり、建物としての教会も、常駐する神父も必要が無かった。それを読めば、どうすべきか、ぜんぶ書いてある。つまり、教会依存の定集住を強いるキリスト教を、遊牧民だったモーゼ時代のユダヤ教の律法聖書のスタイルに戻した。

 『コーラン』は、生活のマニュアル。その中でも特徴的なのが、偶像崇拝と太陽崇拝の徹底的な禁止。人間が「創った」偶像は論外。また、唯一神は、ありとあらゆるところに、ありとあらゆる時に臨在しているのであり、太陽のように出たり引っ込んだりしない。しかし、これは、ありとあらゆるところで、ありとあらゆる時に礼拝しないといけない、ということでもある。イスラムとは、全面的に帰依すること。世界のどこにいても、一日五回の礼拝で帰依を立証しないといけない。

 イスラムは太陽を嫌い、月齢、太陰暦を使う。このため、月の季節が年によってズレてくる。ところが、その一方、じつは礼拝の時刻は、太陽を基準に決められている。現代でこそ、きっちりと時刻が決められているが、もとはけっこうアバウトだった。最初の礼拝は、黎明、次は太陽正中の後、3回目は太陽が黄色くなるころまで、4回目は日没後、そして5回目は太陽の赤い残光が消えた後。2017年7月20日の東京の場合、02:55, 11:46, 03:35, 18:55, 20:25。これに従うと、言わばお豆腐屋さんのような生活になる。三時前に起きて、昼まで働き、ちょっと昼寝。日が陰ってから、あれこれ。夕飯の前にお祈りして、寝る前にもお祈り。日が出てからしか起きて来ない異教徒たちが、日中に昼寝をしているかれらを見て、働かない、などと言うのは、とんだ的外れ。

 そもそも礼拝には、徹底的な清浄が求められる。だから、各礼拝より前に、手を三度、足を三度洗い、ウガイも三度、髪や耳の穴まできれいにしないといけない。そんな早く起きられないよ、と泣きごとを言ったって、町中に「アザーン」という礼拝招集の呼びかけが大音量で流れるのだから、いやでも目が覚める。行かないと、世間体も悪い。とはいえ、このアザーンの呼びかけは、べつに無理強いをするものではない。成功したければ礼拝においで、というもの。したくなければ、べつにいいよ、ユダヤ教でも、キリスト教でも、好きにすれば、と突っ放している。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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