変化こそ生きているあかし:アリストテレスの形而上学

画像: photo AC: myumyu さん

2017.06.13

ライフ・ソーシャル

変化こそ生きているあかし:アリストテレスの形而上学

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/一月たっても枯れない花が、花か。真に現実に存在するものは、変わり続けていく。変わり方こそが、理想を体現する。だが、うまく変わっていくのも容易ではない。四つの要因、三つのステップを踏まえ、変わっていく勇気を持とう。/

 アリストテレスによれば、変化は、なりうる、なりつつある、なっている、の三つのステップがある。同じ住宅地でも、分譲地、建設中、完成後があるようなもの。うまく変わるためには、この三つのステップを一つ一つ践んでいかないといけない。たとえば、最初から有名マンガ家になりたいなどとバカな夢に酔いしれるのではなく、まずは絵や話の勉強をして、マンガ家になりうるようにならないといけない。そのうえで、いろいろ描いてみてデビューし、連載をもらう。有名になるのは、その後の話。結婚でも、収入の当てや家事の能力もないのでは話にならない。それから、ようやく婚活、そして、ゴールイン。

 ところで、海外旅行に行きたいと思っても、若いときには、カネが無い。働き盛りは、ヒマが無い。定年後は、体力が無い。そもそも海外になんか関心が無い、というのでは、なにも始まらない。逆に言うと、旅行は、これらがぜんぶ揃わないと行かれない。ステップアップも同じで、それがうまく進むためには、四つの要因が求められる。

 たとえば、家を建てるには、材木が必要。これが材料因。しかし、材木だけ置いておいても、自然に家ができるわけではない。どんな家にするのか、設計図が無いといけない。これが形相因。かといって、材木の上に設計図を載せたって、魔法でもあるまいに、それだけで家になるわけではない。設計図どおりに材木を刻んで組む大工がいないと。これが作動因。ところが、大工を呼んでも、大工は材木の上で図面を見ているだけで、なにもしない。施主がいて、支払いの契約をしてはじめて働いてくれる。これが目的因。

 変わること、三つのステップを上がっていくこと。そのそれぞれのステップアップには、四つの要因を揃えないといけない。ステップアップの材料因、それは自分。そして、形相因は夢。しかし、自分が夢を見ているだけでは、なにも始まらない。自分を夢に近づける努力という作動因を起こし、具体的に夢を叶える道筋という目的因を見つけないと、自分の夢は現実の形にはなっていかない。

 停滞は、悪だ、ニセモノだ。変わろう。変わる勇気を持とう。そして、そのために、変わる四要因を揃えよう。我々は、そして、世界も、時間の旅人だ。ここには留まれない。まして前には戻れない。年齢相応の責任、老いさえもすすんで引き受ける覚悟を持とう。流れに取り残され、居場所を失う前に、自分から前に歩み出て、みずから真の美しさを実現しよう。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学 哲学教授

我、何を為すや。忙しさに追われ、自分を見失いがちな日々の中で、先哲古典の言を踏まえ、仕事の生活とは何か、多面的に考察していく思索集。ビジネスニュースとしてシェアメディア INSIGHT NOW! に連載され、livedoor や goo などからもネット配信された珠玉の哲学エッセイを一冊に凝縮。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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