「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

画像: Metalworking News

2015.06.12

経営・マネジメント

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「金属積層造形」という生産革新が立ち上がろうとしている。対処のしかたを間違えると、日本のモノづくりを支える地方の金属加工業や中小部品製造業にとって致命的な事態となりかねない。

http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2015062719SC000/

例えば現時点の3Dプリンターで製造できる寸法精度は0.1ミリ程度に留まるが、顧客の要望に応えるためにはその10倍、100倍の加工精度が必要とされる。逆に熟練の職人ならば、3Dプリンティング後の熱処理による膨張を予想して製造時の値をあらかじめ微調整することも可能だそうだ。

こうした実用的なノウハウが貯まることで、先行してAM方式を導入したGEなどは最適な生産方式を組み合わせて、顧客要望により的確に応えていく体制が出来上がるというわけだ。

言い換えれば、「そんな海のものとも山のものとも分からない技術なんぞ糞食らえ」とずっと拒否している日本の大手メーカーたちは、知らない間に世界の趨勢から大きく取り残されようとしているのだ。

そしてある時(かなり痛い目に遭ってから)、彼らもAM方式の意義と性能向上に気づき、急遽かつやみくもに生産体制を切り替えようとするだろう。

その際、彼らは地方の下請け加工メーカーの生産方式の転換(または追加)まで指導してくれるだろうか。地域の金融機関は、まだまだ高価な金属3Dプリンターの導入に便宜を図ってくれるだろうか。

過去の超円高の際の行動を見る限り、そうした思慮深い行動をしてくれる大手メーカーや金融機関はごく一部に過ぎないと考えざるを得ない。

きっと大半の大手完成品メーカーは単純に、自らの設計内容を変え、その3D-CADデータで生産してくれる大手Tier-1部品メーカーに生産委託するだろう。

そしてそのTier-1(もしくはTier-2の)部品メーカーはモジュール部品をAM方式で一体成形するだけで、下請けに出す度合は一挙に減る可能性が高いと推察される。

もしかすると一部の大手完成品メーカーは、自ら3Dプリンターを導入して内製化する方向に走るかも知れない。外に発注するのは、従来方式で生産するほうが有利な部品だけにするのだ。

そうした動きが急に始まる場合、先に触れたAM方式の、精度に関する課題等を克服する時間的余裕がなく、品質問題が急増することも予想される。思慮のないメーカーだと、(新方式のノウハウが貯まるまで)従来方式に一旦戻すことを宣言するなど、かなりの混乱が生じかねない。

いずれにせよAM方式へのシフトが本格化すると(その割合は誰にも分からない)、今までの方式に磨きに磨きを掛けてきながら大手メーカーの海外生産シフトに苦しんできた地方の下請け部品メーカーは、さらに生産額を減らすことになりかねない。地場の金属加工業者の中には死活問題となるところも出てくるだろう。

だからこそ小生は、冒頭に述べたように知人には警告を発してきた。地方の中小加工メーカーの関係者や、地場の金属加工業を支援する商工会議所や金融機関の方々には、このAM方式に関する動きに目を光らせておいて欲しい。

できれば皆がドタバタと動く前に、先見性のある加工業者に薦めて、(GEの刈羽事業所のように)金属用3Dプリンターを先行導入させてノウハウを貯めるように促して欲しい。その際に必要なら、高価な金属用3Dプリンターを導入できる体力をつけるため、合併・統合も躊躇すべきではない。

日本のモノづくりの重要な一部が急死しないようにするため、できることは幾つもあるはずだ。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

当社は新規事業の開発・推進・見直しを中心とした戦略コンサルティング・サービスを提供しております。代表である私は、30年にわたる戦略コンサルティングと、実務での新規事業開発の経験を基に、企業の特性と事情に合わせた「実践的アプローチ」、「3倍速のスピード感」、「サイド・バイ・サイドの姿勢」を持って、経営者の思いを実現することを心掛けています。 新規事業やサービスの開発においては、テーマ探索~事業仮説開発~検証~試行といったプロセスに沿って一気通貫でご支援することもできますし、必要に応じて一部だけを抜き出して対応することもできます。 詳しくは弊社HPをご覧ください。ご登録いただければメルマガもお届けします。

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