「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

画像: Metalworking News

2015.06.12

経営・マネジメント

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「金属積層造形」という生産革新が立ち上がろうとしている。対処のしかたを間違えると、日本のモノづくりを支える地方の金属加工業や中小部品製造業にとって致命的な事態となりかねない。

設計データさえ切り替えれば「段取り」完了するので、多品種少量生産に向いている。

こんなにいいことばかりなら生産方式が一気に切り替わりそうなものだが、そうなっていないのには理由がある。そう、この方式にもデメリットが幾つかある。

3Dプリンターの成形過程を見たことがある人ならすぐ気づくだろうが、製造スピードが格段に遅いことがまず挙げられるだろう。いくら一挙に完成できるといっても、従来方式で製造した部品を組み合わせるほうが圧倒的に量産に向いている。

しかし生まれたばかりの技術なので、今後のスピードアップの余地は大きいだろう。ある程度のスピードまでくれば、あとは3Dプリンターの数を増やして、並行して同じ製品を作ることで従来方式に対抗できるかも知れない。

もしくは初期量産分は従来方式のままで生産し、サービス用部品と追加生産分の完成品は在庫せずに、追加受注に応じてAM方式で生産するやり方に切り替えるところも出てくるだろう。

とはいえ、1台当りの装置コストが今のところ1億円前後と随分高いので、そうなるまでには時間がかかりそうだ。

しかし数年前には単純な機能の製品でさえ1千万円超だった樹脂用3Dプリンターが、今では汎用機だと100万円台で入手でき、普及機だと10万円を切るものまで登場しているほどに一挙に低価格化が進んだことを考えると、金属用でも今後予想を超えるスピードで価格低下が進む可能性は高いだろう。

AM方式で製造できるサイズがまだまだ小さいのも事実だ。ただしこれは3Dプリンターのサイズが大きくなれば対処できる話だ。

事実、GE傘下のGE Aviationではadditive manufacturing方式でジェットエンジン(でかいことは分かりますよね)用のパーツを製作し始めている。

http://www.ge.com/stories/advanced-manufacturing

結局、何といっても従来と全く違う方式なので、本来の効果を引き出すべく本腰を入れて切り替えるとなると、設計~部品製造~部品調達~組立というサプライチェーン全般を見直さなければならない。それだけ手間とコストを掛けてもメリットが上回るのかを見極めなくてはならない。

この大変さが一番大きなハードルだ。

したがって自動車メーカーや大型機械メーカーなど、産業構造の大本がその気になって号令を掛けない限り、なかなか切り替わらないというのが日本の現実だろう。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。新規事業の開発・推進、そして既存事業の収益改善を主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/               弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashinban/            最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/

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