公立図書館ではベストセラー本を扱うな

画像: Wikipedia:ニューヨーク公共図書館

2015.01.26

経営・マネジメント

公立図書館ではベストセラー本を扱うな

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

公立図書館がベストセラー本や人気作家の作品を貸し出している現状は、税金を使って公的な「立ち読み」を促しているようなもので、出版文化の存立基盤を脅かしていることに気づくべき。

街角にある一般書店の経営は苦しく、2003年以降の10年間で約5000店が店を畳んでいるそうだ(アルメディア調べ)。雑誌・コミック本・文庫本といった3つの柱の売上が大半で、それにベストセラー本や人気作家の作品群の売上を加えて、辛うじて書店の運営費をねん出しているのが実態だ。そして出版社のほうも事情は同様だ。

人口減少時代を迎えてただでさえ未来の読者人口が減る中、スマホでSNSやゲームに忙しい若者が文字離れを起こしていることで、出版・書店業界は構造不況業種と称されている。

その唯一の救いというか希望の灯が本好きの中高年層であり、定年を迎えて時間に余裕が出てきた彼らの読書欲なのだ。彼らがファン層として定着した人気作家の作品は安定して売れ、出版社の乏しい利益を支えている。実際大半の出版社が、先に挙げた3本柱と、こうした数限られた人気作品およびそれらを原作として生まれるドラマ化や映画化などの派生事業の収益で、屋台骨が支えられている。

その収益があるからこそ、到底儲からないことが分かっている文化的価値の高い出版物の出版や新人作家の発掘など、いわば「知の創出・継承」の役割も担うことができるのだ。

そうした中、公立図書館が中高年層の利用者に人気の高いベストセラー本を貸し出すことで何がもたらされているのか。それだけ街角の書店から本を買う人は減り、出版業界の売上は減る。

複数冊を仕入れて高回転で貸し出ししている図書館はまさに、「旬の商品」が売れるはずのタイミングで営業妨害をしているわけであり、書店や出版社の倒産に手を貸していると非難されてもおかしくないだろう。作家からしても、想像力と汗の結晶である作品からの印税収入の機会を不当に奪われているのだ。

きっと図書館側はこう反論するだろう。「私たちは書店や出版社、そして作家の足を引っ張ろうとしているわけじゃありません。むしろ出版社の売上に貢献する一方で、幅広い作家の作品紹介にもなると自負しています」と。

でも客観的にみれば、その言い訳はこじつけに過ぎない。既に人気作家となっている作家の作品を公的に「立ち読み」させることは、「幅広い作家の作品紹介」などという綺麗事とは全く異質の行為で、出版全体の売上金額を減らすことにしかつながっていない。

こうした議論をすると、「正義派」の人々が登場して、社会的弱者への同情論を語ることがよくある。いわく、「高齢の年金生活者にはお金に余裕がない人々が少なくない。彼らだってベストセラーを読む権利はある。それを満たして差し上げるのが公的な図書館の役割の一つだ」と。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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