農協改革にみる組織変革の攻防

画像: Archives New Zealand

2014.06.11

組織・人材

農協改革にみる組織変革の攻防

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

大胆な組織変革案の撤回に潜む改革側のシナリオの裏を読む。これは政治ショーの楽しみ方でもあるし、企業での改革シナリオ作りの参考にもなる。

さらに「農業委員会委員の選挙制をやめ、市町村長の選任制に変える」という案についても、市町村議会の同意を条件に飲ませることに成功している。これにより、首長さえ改革に前向きであれば農協の影響を排除できるため、農地集約などを進めやすくなる。

「全農を株式会社に転換する」という案については「前向きに検討」という官僚の得意な玉虫色の表現なので、政権と党の力関係次第でどうとでも変わりそうだ。これが実現すれば、全農という商社機構に対し、取締役会などを通じて政府のガバナンスを効かせようという腹だろう。

つまり政府側は、JAグループが最も反発する組織改革テーマを見せ球にして、そちらに関心を集中させ、それ以外のテーマで「実」を取ったのではないかと思えるのだ。もしかするとさらに、「全中廃止」案を引っ込める代わりに、TPP交渉での思い切った対米譲歩を認めさせたのかも知れない。

実は小生も過去、幾つかのクライアント企業でのプロジェクトで、構造改革を支援するコンサルタントチームの責任者として、似たような手を使ったことがある。いずれの場合も、社長の社内における権力基盤が十分でないための苦肉の策だった。

素のままの改革案だけを持ち出しても、反対派から色々と難癖を付けられて「値切られて」しまう可能性が高かったため、「見せ球」として大胆な組織変更を持ち出したのだ。

案の定、反対派の関心は自分たちの本丸である組織を守ることに集中し、それ以外の実質的な改革内容についてはあっさりと条件つき同意に応じてくれた。

但し、この手には良い点と悪い点が同居している。良い点は、意外と簡単に「条件闘争」に持ち込める点だ。多くのどっちつかずの人は「お手並み拝見」とばかりに様子見を決め込むので、改革賛成派が早く動いて実績を上げていけば、改革賛成ムードは一挙に拡がる。

悪い点は、「見せ球」を途中で引っ込める代わりに「条件闘争」に持ち込むやり方は、そう何度も使えないことだ。

そのうちに反対派も「ああ、この部分は見せ球だな」と学習するので、こちらが狼少年になってしまう。その間に改革の実績が上がっていないと、逆に様子見派の信頼を獲得できずに離反されるリスクが高まる。

つまり、改革を仕掛ける政権側は、既に獲得した改革テーマ(農協改革に限りません)で早急に結果を出し、それにより次の改革の推進力につなげる必要があるのだ。

さもないと政権は段々求心力を失い、足元を見る反対派から色々な場面で「値切り」交渉的な条件闘争を強いられ、いずれ実質的には日々の改善活動に格下げされかねないのだ。

さて、安倍政権はこのあと年末に向け、具体案を固める過程でさらに後退を強いられるのか、それとも踏み留まって巻き返しを図るのか、見ものだ。同時並行的に、その他の成長戦略でアベノミクス景気を持続させる成果を上げられるのかが、この農業・農協改革も左右することは、既に述べた通りだ。

TPPによる大嵐がやってくる前に農協改革を着実に進めておくことは、ニッポンの農業の生き残りと再生にとっての重要な必要条件の一つだ。同時に、「外から仕掛ける」組織改革の見本でもある。注目する価値は十分ありそうだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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