変らないというイノベーション

2009.04.03

経営・マネジメント

変らないというイノベーション

猪熊 篤史

外的環境の変化を待つ、環境の変化に働きかけるという戦略もある。

人の生活には新たな価値の創造、いわば、イノベーションが必要である。昨日の活動の上にさらなる活動を積み上げること、あるいは、昨日の活動をリセットして、新たにゼロから活動を積み上げる必要がある。企業の決算においては毎年、あるいは、半期、四半期ごとに成績はリセットされて、新たな収益の積み上げが必要となる。事業の勢いや市場の流れによって、惰性的に収益があがることはあるが、そのような場合でも、新たな取り組みなしに好ましい状況は長続きしない。

イノベーションとは既存の状況や状態をより良いものに変え、それまで実現し得なかった価値を創造することである。価値創造の源泉の調達、価値創造のプロセス、価値の提供方法、価値のあり方や形、あるいはそれら一連の活動を総合的に変革することによってイノベーションは実現する。

もう一つイノベーションの形があるだろう。それはイノベーションの対象と考えられる主体を取巻く環境を変えることである。言うなれば「変らないというイノベーション」である。

戦国の名将、武田信玄が掲げた「風林火山」という中国の兵法に由来する戦略観で言えば、「動かざること山の如し」、あるいは、「しずかなること林の如し」とう姿勢や態度に対応するのが「変らないというイノベーション」である。

変らないというイノベーションも結果的に価値を生まなければ意味がない。変らないというイノベーションは持続的でなければならない。「動かざること山の如し」と言って居直っても、そのために致命傷を負ってしまったり、競争集団から大きく脱落してしまうのでは意味がない。変らないというイノベーションは、最も高度な種類のイノベーションであると言えよう。

実際、ある主体が全く変らないのではなく、多少は変ることがあっても、それを取巻く環境の変化の方が、はるかに大きいのが、この変らないというイノベーションの実態であろう。

ベンチャー経営において基本的な戦略や態度を維持して、市場の認知、理解、容認、許容、選択、選好、愛好を待つためには、このタイプのイノベーションを実現する必要があるだろう。

不慮の事故などによる困難の克服のためにはこのタイプのイノベーションが必要になるだろう。脅威にさらされても非核三原則を維持することも、この種のイノベーションが必要な例ではないだろうか?

変らないというイノベーションを実現するためには、変ること以上にエネルギーが必要になる。変らないというイノベーションを簡単に実現した場合、それはイノベーションではないか、あるいは、イノベーションの失敗を意味することが多い。

【V.スピリット No.114より】

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。