想像力

2009.03.30

経営・マネジメント

想像力

猪熊 篤史

想像力は限界を超えていく力である。

周到な市場調査が製品の売れ行きを確実に予想するものではないように、また、多くの偉大な発明が偶然や事故、あるいは、ひらめきによって生み出されているように、現実は計画や計算の通りに導き出せるものではない。

ゴルフコース上の池を意識すると、打球が池に吸い込まれていくことがある。偶然や事故でさえも潜在意識によって導かれた必然なのかも知れない。あるいは、現在の意識は未来の予言なのかも知れない。

研究や調査のための努力を否定するものではないが、モノゴトの真理を解明するのは、研究や調査、あるいは、経験など自体ではなく、それらに基づいた想像力、あるいは、ひらめきである。分析や調査、あるいは、経験は、形あるもの、意味のあるもの、あるいは、価値のあるものを創造するための原材料を提供するに過ぎない。

ジャガイモとニンジン、玉ねぎや肉を並べてもカレーにはならない。それらを適度に刻んでもやはり料理にはならない。それを調理、加工、盛り合わせる方法を知らなければならない。

調理の仕方とは、過去の成功や経験の模倣である。それらに忠実に従うことによって料理という「創造」が生まれる。

ビジネスなどの現実において型にはまった行動が求められることは多い。しかし、経営など未知の領域を切り拓いていく活動においては、原材料をどのように加工するのか、組み合わせるのか、あるいはどのような原材料を選択するのかなど、型にはまらない創造が求められる。それを可能にするのが想像力である。

想像力には2つの要素がある。1つは、過去の経験則との類似性を利用した模倣である。もう1つは、未来を予言する活動、あるいは、未来を形作る活動である。前者は比較的受動的、後者は能動的なものだと言える。

受動的な想像力は、物理的あるいは心理的な作用による計算や計画によって未来に近づこうとする。アナリスト、評論家、あるいは、占い師のアプローチがこれに該当することが多いだろう。これに対して、能動的な想像力の起源は「こうあるべき」という想いである。経営者や指導者には、そのような思想や哲学が必要である。

未来を描くためには、将来を見つめるだけではなく、直接的な経験や書籍などで学びうる間接的な経験を活用した模倣的な分析を積み上げて展開することができる。過去との類似性を無視した未来の展望は空想でしかない。未来を予見して、将来へと導く思想や哲学は、過去にとらわれて発想する必要はないが、過去の経験や事実を無視したものではいけない。過去の記憶、事実、歴史と未来を展望する意志が、想像力を与え、創造を可能にするようである。

想像力によって未来を創造するためには、強固で柔軟な基軸を持つ必要もある。現時点における思考や価値判断の基軸が、過去の解釈と未来に対する展望を可能にする。一方で、過去と未来を見つめることから、現在の足場が築かれる。

想像力は、過去、現在、未来と整合的なものであってはじめて効果を発揮する。

【V.スピリット No.107より】

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