知的生産の原理:算術にたとえて

2026.08.27

開発秘話

知的生産の原理:算術にたとえて

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/既存情報を寄せ集めたり、引き写したりするのなら、AIでもできるし、精度も上がらない。異なるデータを掛けたり割ったりすると、そこに思わぬ相関関係が見つかり、そこからその背景への探究が拡がる。これが今後のAIの総当たりに期待されるところ。しかし、データ集合をまとめ上げる枠組を考え出すには、芸術のような、あえて既存の枠組では意味のない次元そのものの創造が求められる。/

 情報学としては、集合論や多次元ベクトル、アリストテレスから現代に至るまでのトポロジーと、いろいろややこしいところだが、ここではかんたんに算術で、それらを説明しよう。

 一次元:情報の足し算と引き算:学生や文系学者がよくやっているのが、この地べた水準。ようするに、既存の情報の寄せ集めと引き写しだ。集合論で言えば、和集合や共通集合。聖書の権威が絶対的だった中世ヨーロッパにおいては、聖書か権威ある聖人の文書に典拠を持つ言葉のみが真実とされ、それを掻き集め、矛盾の辻褄合わせをするスコラ学が支配した。東洋においても、先哲の権威が絶対とされ、とくに日本では、大学の文系学部が幕府の蛮書和解(わげ)御用から発展したので、横のものを縦にする、と言われ、多くの洋書を要約してまとめることを「研究」と称してきた。いまでもウィキペディアンみたいな連中は、妄信的な典拠主義に凝り固まっており、すでに出版されている文献にある言葉以外はすべて「捏造」だと言って粛清抹殺しようとする。そのくせ、おうおうに、偽アレオパギテスとか、周易伝とか、権威ある文献の中に、まさに後世に捏造された偽書が多く紛れ込んでおり、学術的にもあまり当てにならず、それどころか、むしろこれらの濁った情報で混乱を引き起こす。じつのところ、近年のAIも、基本的には、これと同じ情報の足し算や引き算で動いており、もとのデータがいいかげんなネットの拾いものだらけなのだから、いくら足したり引いたりしても、情報としての精度は上がらない。それどころか、この足し算や引き算をやればやるほど、出典ばかりは多いが根拠の怪しい下世話な妄言に収斂していく。いずれにせよ、いまの時代に、こんな単純作業は、人間がやる仕事ではない。

 二次元:情報の掛け算と割り算:異なる集合に属しているデータとデータを掛けたり割ったりすることで、新しい発見をする方法。たとえば、気象データと収穫データを掛け合わせることで、気象と収穫の相関関係を割り出す。これらの多くは、かつて経験則として知られていたもの。ただし、相関関係にあるからといって、どちらかが原因で、どちらかが結果だとは限らず、もっと別の、第三の共通原因があるかもしれない。しかし、まず相関関係が発見されてこそ、それをきっかけに、その相関関係の背景への探究が始まるのであり、それは知的世界を大きく拡張する端緒となる。とくに割り算、商が等しくなるものは、古来、アナロジー(比喩)と呼ばれる。ニュートンが気づいた、リンゴと地球の関係は、地球と太陽の関係に等しい、というひらめきが、万有引力の発見に導いた。しかし、どのデータとどのデータを掛け合わせるか、まして、どのデータの商とどのデータの商が同じか、などということは、異なるデータ集合を高次で飛躍的に結びつける作業で、実際のところ、あらかじめなんらかの伝承的な経験則でもあるのでなければ、まったくの試行錯誤。とはいえ、今後、倦むことのないAIならば、まさにでたらめにさまざまなデータ集合の相関関係を総当たりすることで、人間が思いもよらなかった知見をもたらすことが期待できるだろう。

 三次元:情報の積分と微分:多様な二次元的相関関係を、さらに第三の時間軸や距離軸などの拡がりにおいて把握したもの。たとえば、ある文明の政治や経済、文化などのさまざまな事象を、○○時代、として総体的に理解する、もしくは、その変化動向を追跡する。中には、ティコ・ブラーエの地球中心の複雑煩瑣な天体観測データを、太陽中心に座標変換することで、きれいな楕円軌道を導き出したケプラーのような例もある。しかし、どういう単位に切り分けてまとめるか、なにをもって変化を辿るか、いかなる座標軸でデータを整理するか、は、カントが言うように、どの個々の元データの中も含まれておらず、それゆえ、むしろアスペクト、世界観や時代観、自然観や生物観など、主観的に外側からの枠組として与えられるべきものとなる。したがって、これもひらめきの当てずっぽ、やってみないとうまくまとまるかどうかわからない試行錯誤の連続。とはいえ、このような外装的な枠組は、総当たりもなにも、そもそもデータですらないのだから、AIさえひらめきようがない。だから、むしろ、既存の情報体系から外れた、いかれた天才が、でたらめの末に、気づいたらやっていた、というようなものかもしれない。それゆえ、これにもっと近い、その一歩手前が芸術で、むしろあえて既存の枠組の中では意味が確定していない新たな次元そのものを作り出すことで、その後から、その次元が何を包摂(暗喩)しうるのか、さまざまな論評とともに検討される。しかし、こうしてかんたんに評価が固まってしまう程度のわかりやすい芸術は、その創造的な力もすぐに失われてしまう。いつまでたっても、結局、なにがなんだかわからないにもかかわらず、さまざまな示唆に富んで、情報の積分や微分の第三次元となりうる作品のみが、人類の知的資産として、我々に高度な情報の生成精製をもたらし続けてくれる。

純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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