2026.08.04
リスキリングは、誰のための学びなのか ――「市場価値を高め続けなければ生き残れない社会」の、その先へ
齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
終身雇用の崩壊が語られるようになって久しい。 一つの会社に入り、決められた仕事を覚え、勤勉に働き続ければ、会社が生活と雇用を守ってくれる。少なくとも、多くの人が信じてきたこの前提は、すでに大きく揺らいでいる。 事業の寿命は短くなり、技術は急速に変化し、昨日まで必要とされた仕事が、明日も同じ価値を持つとは限らない。生成AIの普及によって、文章作成、情報整理、分析、翻訳、資料作成など、これまで一定の経験を必要としてきた仕事も急速に変わり始めている。
三か月学んでから実践するのではなく、学んだ翌日に仕事で使う。小さく試し、結果を見て、考え、修正する。知識を蓄えるのではなく、現実との往復によって使える力へ変えていく。
第三に、個人任せにしないことである。
企業が「これからは自律的なキャリア形成の時代だ」と言いながら、学ぶ時間も、挑戦する仕事も、失敗できる余白も与えなければ、リスキリングは進まない。
経済産業省の人的資本経営の事例でも、経営戦略と人材戦略を結びつけ、必要な人材像や能力の差を明らかにしたうえで、配置、学習、実践を連動させる取り組みが示されている。単に研修メニューを増やすのではなく、企業がどこへ向かうのか、そのためにどのような人材が必要なのかを定めることが出発点なのである。
リスキリングの成功事例とは、資格取得者が増えた会社ではない。
学んだ人が新しい役割を担い、新しい価値を生み出し、その姿を見た周囲の人も学び始める。その循環が生まれた会社である。
AI時代に必要なのは、能力の追加だけではない
これから多くの人が、生成AIの使い方を学ぶだろう。
確かに、AIを使いこなす能力は重要になる。しかし、操作方法だけを学んでも、人や組織が本質的に進化するとは限らない。
目的の曖昧な仕事をAIで速くする。
必要性の低い資料をAIで大量につくる。
考えるべき問題をAIに丸投げする。
人を数字と機能で捉える経営を、データによってさらに精密化する。
これでは、進化ではない。
古い仕事の進め方を高速化しているだけである。
AI時代に問われるのは、何ができるかだけではない。
何のために、その能力を使うのか。
誰のどのような問題を解決するのか。
効率化によって生まれた時間を、何に使うのか。
人間にしか担えない価値とは何か。
自分は仕事を通じて、何を残したいのか。
こうした問いに向き合う力は、特定のソフトウエアの操作方法よりも、長くその人を支える。
技術は変わる。
流行する職種も変わる。
市場から求められる能力も変わる。
だからこそ、その変化のたびに自分を作り替えるだけではなく、変化の中で何を大切にするのかという判断軸を育てなければならない。
市場価値から、人間価値へ
市場価値を高めることを否定する必要はない。
自分の能力を磨き、選択肢を増やし、経済的に自立することは大切である。会社に自分の人生を預け切るのではなく、環境が変わっても働き続けられる力を持つことも必要だ。
しかし、市場価値は人間の価値そのものではない。
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株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。
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