/一人一人が、独立の親方。唯一無二のノウハウがあって、全国どこでも、運よく素材が手に入ったところのプロジェクトで、ああ、あの人、と、声がかかるようにならないと、なかなか生きていくのは難しくなる。/
これは日本だけの労働慣習だったのだろう。所属と身分が一体で、職務は24時間365日体制だった。歴史をふりかえると、大和朝廷の部の民とか、武家の一族郎党とかにまで遡る話だ。明治時代の官僚や軍人も、国家に所属し、特権身分が与えられる代わりに、フルタイム勤務で、ときには命さえ差し出す。これに倣った財閥の正社員も、同じような働き方だった。そして、戦後。中小企業まで、これをまね、税制も社会保障も、この家族ぐるみの企業所属制を基礎としてきた。
たしかに戦後復興、高度経済成長からバブルにかけて、実際、24時間365日の総力戦が必要だった。組織を挙げてがんばれば、がんばっただけのリターンが社員たちに還元された。が、バブル崩壊後、世の中が廻らなくなると、会社にいるだけ、という人材が生じ始める。生産性も無いのに、朝から満員電車で出社して、一日、ただ座って待機。おまけに、お客様第一主義とか言って、深夜まで残業して対応。それで、新入社員の採用を減らし、テンポラリーな派遣や外注に置き換え、企業はリストラ、リストラ。
さて、石油が途絶えた。会社や工場に来ていたって、いよいよなにもすることが無い。いましばらくは、あちこちに連絡して、なにかリカバリーの対策はないか、値上げして調達し、価格転嫁できないか、模索し奔走しているが、そのうち、どうやっても世界中、総量が無い以上、無いものは無い、どうにもならないことに気づくだろう。
こうなると、生産性がゼロどころか、フルタイムの正社員なんて、固定給と社会保障負担を垂れ流す負債でしかない。もうゴーイングコンサーンなんてムリ。1700年ころの株式会社のように、まれに運よく仕事のネタと素材が手に入ったときだけ、ミッションインポッシブルよろしく、手の空いているメンバーを集めて、ちょっと操業して、その仕事が終わったら、そこで解散。住宅の建築現場が、すでにそんな感じだ。工務店は幹事なだけで、大工を社員として雇うのではなく、一人親方の寄せ集め。
ヨーロッパの場合、もともとメイソンは、そういう仕組み。月一の寄り合いで、食事会がてら仕事の相談をして、そのジョイントヴェンチャーに、親方たちが自分のところの数人の徒弟と参加する。不景気ないまの中国なんかも、そんな感じで、仕事を融通しているらしい。逆になにか仕事が入っても、いまは仕事の方の規模が大きくなりすぎて、どのみちどこかの親方が自分のところだけで負える話ではないから、他の親方たちとの連携が必要だ。
もちろん、こうなると、正社員のようには、仕事や収入は安定しない。みんながみんな、俳優やタレントみたいに、特定の仕事ごとの集合解散の働き方になる。いや、その仕事を調整するタレント事務所さえ、常設できないかもしれない。日本では、トクリュウ(特定流動型犯罪)に関わる連中をバカにしているが、犯罪でなければ、あのやり方のほうが、いまの時代に合っている。いくら資本があったって、素材が入手できなければ、仕事が始められない。仕事も無いのに、ただ人を置いておく余裕は無い。
一人一人が、独立の親方。経営者との個人的なつながりで、恒常的に企業にぶら下がり続ける「顧問」みたいなのは、真っ先に切られる。唯一無二のノウハウがあって、全国どこでも、運よく素材が手に入ったところのプロジェクトで、ああ、あの人、と、声がかかるようにならないと、なかなか生きていくのは難しくなる。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。
経営
2025.05.19
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
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