接客業の終焉

2026.01.22

組織・人材

接客業の終焉

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/もうこの国は、文明知性や社会倫理を失い、野蛮人に戻って行っている。言ってみれば、もはや堤防が決壊してしまった後の祭りで、だれかがふんまってみたところで、いよいよ逆に風当たりが強くなって、逆恨みされるだけ。/

 医師や教員のなり手がいない。慢性的な人手不足だ。もはや、給与がどうこう、という水準の話では無い。割に合わない、というより、どうやってもムリゲーになりつつあるからだ。

 まるで小学校の学級会だ。その思いつきは正しい。それはたしかに、そのようにした方がいい。だが、しょせんはガキの提案。なにかをするには、手間と人手と費用がかかる。しかし、その総時間、総人材、総予算は有限だ。その有限の資源の中で、もはややりくりがつかない。

 いいことを思いついた、と、会議でしゃべっている偉い人は、自分の一言で全員に通達できるかもしらん。だが、病院や学校は、そんな掛け算商売ではなく、個別相手を積み上げる足し算仕事だ。その個々で応じるべきサービスが掛け算的に増大すれば、総計もまた飛躍的に膨れ上がる。昔の、仁術、聖職、なんていう理想は、ここまで巨大化してしまった、いまの病院や学校では、実現不可能。なのに、上も、相手も、あいかわらずそれを期待し、その期待が満たされないと、クレーム、クレーム、で、いよいよ仕事を麻痺させる。

 おまけに、昨今、上が机上で考えているような、まともな相手ばかりではない。ただ自分のヒマとさみしさを紛らわすためにまとわりつく者から、ドサクサでの詐取が目的で近づいてくる者、はては暴力に及び、通常業務を破綻させることを快とするテロリストみたいな者まで、紛れ込んでいる。こういうのが出ると、マニュアル的なルーティンワークでも処理できず、おまけに、上は、報告を挙げろ、だが、始末は現場でしろ、と、行ったり来たりで、いよいよ仕事は増える一方だ。

 それは、飲食業などでも同じだ。楽しく飲んで、カネ払いがいい客ばかりではない。体調を崩して嘔吐だ、昏睡だ、というようなトラブルは昔からあるだろうが、きょうび地回りの恐い人もいないとなると、店内で傍若無人で騒ぐ酔っ払い、女性客に余計なちょっかいを出すおやじ、醤油瓶を舐めて動画を撮ってケタケタ笑うバカガキの集団、等々、まったく想定外の連中がぞろぞろ。こんなの、深夜のワンオペで捌けるわけがない。

 販売業でも似たようなもの。万引きなんか日常茶飯事。シールの貼り替え、セルフレジのごまかし、支払い前の店内開封飲食、通路を子供が奇声を上げて走り回り、ペットの入店を断られた客が大声で騒ぎ立てる。駐車場も不正利用が横行し、ゴミがあちこちに散乱。かと思えば、買い物に来たわけでもない老人がベンチで横になって昼寝。

 ようするに、もうこの国は、文明知性や社会倫理を失い、野蛮人に戻って行っている。警察を呼んだところで、法律だの、人権だの、かんじがらめで腰が引け、それは民事だから、の一言で、だれか殺されるまで、なにも動けない。ただ、なるようにしかならない。

 言ってみれば、もはや堤防が決壊してしまった後の祭りで、だれかが踏み留まって、がんばったところで、いよいよ逆に風当たりが強くなって、逆恨みされるだけ。それで、ばかばかしいから、だれもやりたがらなくなった。なぜ人材が逃げ出すのか、状況がわからないなら、上が自分でいまの現場に出てみればいい。

純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。

Ads by Google

純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

フォロー フォローして純丘曜彰 教授博士の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。